横濱ワイナリー ~日本一小さなワイナリーの挑戦「ワインが好きになる“入り口”でありたい」~

横濱ワイナリー ~日本一小さなワイナリーの挑戦「ワインが好きになる“入り口”でありたい」~

観光地としても有名で多くの人が行き交う元町・中華街駅から徒歩5分ほど。山下公園の近く、横浜港が目の前に広がる場所に、ぽつんと小さなワイナリーがあります。
町田佳子さんがお一人で運営されている「横濱ワイナリー」です。

外観
(写真提供)横濱ワイナリー

ワイナリーと聞くと広大なぶどう畑と大きな醸造設備……というイメージを持ちがちですが、横濱ワイナリーはアーバンワイナリー(都市型ワイナリー)と呼ばれるタイプで、ぶどう畑を併設せず、都市部近郊に醸造所を構えるワイナリーです。
今回は横濱ワイナリーのオーナーである町田佳子さんにお話をお伺いしました。後半ではテイスティングの様子もご紹介します!

※取材日(7月中旬)はテイスティングを実施していましたが、最新の情報は公式HPにてご確認ください。

横濱ワイナリー
神奈川県横浜市にあるアーバンワイナリー(都市型ワイナリー)。全国各地の契約農家から仕入れたぶどうを使って無添加、無ろ過で身体に優しいワイン造りを行う。横浜にできた「日本一小さいワイナリー」として注目を集めている。
HP:https://yokohamawinery.com/

町田佳子(まちだよしこ)
WWF(環境保全団体)退職後、一から独学で学び、横濱ワイナリーを設立。消費者が醸造に携われる「参加型ワイナリー」を目指している。2020年には横浜市内にぶどう畑をつくり、自社栽培ぶどうからのワイン造りにチャレンジ中。

醸造ルーム
横濱ワイナリーの醸造ルーム
(写真提供)横濱ワイナリー
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人との出会いに恵まれて

――町田さんはワイナリーをはじめからお一人で、しかも独学で始められたとのことで、相当熱いパッションがあったんじゃないかと。独学といっても、実際にはどうやって学ばれたのですか?

前職のWWFでかなり鍛えられたので、やってやるぞっていう熱い思いはありましたね。資料や本を片っ端から読み漁るっていうのはもちろんですけど、東京都練馬区にある「東京ワイナリー」さんは私がやりたいと思う参加型のアーバンワイナリーのスタイルと似ているので、そこでお手伝いをしながら学びました。あとは石川県の「ハイディワイナリー」さんとの縁があって、そこでも本格的に学びました。

――石川県!?もともと繋がりがあったんですか?

いえ、それがたまたま石川県にプライベートで旅行に行ったら、旅先でハイディワイナリーを知って、偶然立ち寄ったんです。そこでスタッフと話しているうちに「自分たちも横浜でワイナリーをやろうと思ってたことがあったんですよ!」と言われて盛り上がって、次第に醸造技術などを教えてもらうようになりました。そこでやはりいいワインを造るにはいいぶどうを仕入れることが大事だと学び、自分のコンセプトに合う農家さんを探すようになりました。

――すごい偶然ですね。町田さんは契約農家をどうやって選んでいるんですか?

最初は繋がりがなにもなかったので、知り合いの知り合いに紹介してもらうという繰り返しです。ただ単にぶどうを育てているだけでなく、きちんとぶどうに対して愛があって、大切に育てている農家さんを選んでいます。

――なるほど。町田さんが考える「ぶどうに対しての愛」とは、具体的にはどういうところでしょうか?

前職で環境保全団体に長くいたものですから、「環境に優しく、負荷をかけていない」ことが大前提にありました。いわゆる量産型農家さんではなく、大切にぶどうと向き合っている農家さんとお付き合いしたいなと思っています。
適当でいいなら農薬を大量に使って効率化しようと思えば、それなりのぶどうがたくさん作れちゃうんですよね。でも私はこまめに面倒を見て、手をかければかけるだけいいものができると思っています。美味しいぶどうは本当に大変な労力がかかっているんです。そういった手間を省くために農薬に頼るのは、少し違うなと。もちろんワイン造りはいろんなスタイルがあるので否定しているわけではありませんが。
ただ、きちんと栽培に向き合い手間をかけられれば農薬は省けるので、細かい管理ができる生産者さんを選んでいます。

――町田さんの考えに沿うような農家さんは、なかなか見つけられないものでしょうか?

たくさんいるわけではないですが、ちゃんと見つかります。振り返ればきっかけは人の紹介や出会いがほとんどです。ぶどうの状態が良くないといろいろと添加しないといけないので、信頼できる農家さんじゃないと本当の意味で長い付き合いはできません。

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チャレンジする気持ちを忘れない

――昨年から横浜市内でもぶどう農園を始められたそうですね。

ワイナリーから車で20分くらいのところにある旭区で始めました。これも、たまたま貸してくれる方が現れまして。

――町田さん、たまたまが多いですね(笑)。強運!

そう!私はとても運がいいんです(笑)。
ワイナリー設立に関すること、契約農家さんとの繋がり、横浜市内でのぶどう畑の挑戦、全てにおいて人との出会いに恵まれていました。とにかくいい出会いが多く重なってこうなった、という感じです。

――人との縁に恵まれるのも素晴らしいですが、しっかりと具現化していく町田さんとても素敵です。横浜市内でのぶどう畑も新たな挑戦ですね。

ぶどう畑は現在、シャルドネとピノ・ノワールを植えています。しかも無農薬で。絶対無理だって言われてるんですけどね(笑)。再来年には答えが出るので楽しみです。
どんな感じで育っていくのか観察していきたい。横濱ワイナリーはぶどうの他にもリンゴを使ったシードルやイチゴを使ったワイン造りに挑戦していますが、こういった畑の取り組みもひとつのチャレンジです。

――横浜のぶどう畑も町田さんお一人で管理なさっているんですか?

横濱ワイナリーではオーナー制を導入しているので、オーナーさんと毎週畑で作業しています。横浜市内の方がほとんどで、150人くらいいます。横浜はぶどうの栽培に適しているかは分かりませんし、まだまだ試行錯誤が多いですが、これからもいろんなことに挑戦したいと思っています。

――ここでも人との出会いを大事にされているんですね。町田さんの思いに賛同する方がたくさんいらっしゃるのがうなずけます。

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ワインビギナーにとっての「入り口」でありたい

取材日当日に瓶詰めしたというワイン。まだエチケット(ラベル)も貼られていない状態。

――町田さんが目指しているワインのスタイルはどんなワインですか?

よくある言葉ですが、「何も足さない、何も引かない」がぴったりかなと。ぶどう本来の味を大切にしているので、あえてぶどう自体の出来に左右されるスタイルをとっています。酸化防止剤をほとんど使用せずに、補糖やろ過もしません。アルコール度数は自然と10%前後に調整されるので、ワインを飲み慣れていない人でも親しみやすい味わいに仕上がっていると思います。

――ワインっていまだに、構えちゃう人が多い印象があります。壁があるというか。まだビールや酎ハイと比べるとハードルが高いイメージがありますね。そういう人たちにとって、町田さんが造るワインってすごく入りやすいような気がします。

まさにそこなんです。「ワインって難しい、ハードルが高い」というような固いイメージをとっぱらいたいと思っています。たとえばヨーロッパではふつうに食卓にワインがあるのが日常じゃないですか。なので横濱ワイナリーは、着飾った懐石料理ではなく、普段のお食事に溶け込むような味わいを目指しています。
私自身あんまりお酒が強くないので、やっぱり添加物が少なくて度数も味わいも優しいスタイルを目指そうって自然と思うようになりましたね。うちのワインは、まるでチェイサーのようにすっと身体に入ってきますよ。

――テイスティングが楽しみです。

若い人たちがお酒を飲まなくなってると言いますし、お酒離れって実際に進んでいるのでしょうけど、うちのワインはビギナー向けにぴったりかもしれません。
横濱ワイナリーが造るワインはいわゆるワイン通向けではありません。ワインが苦手と思っていた人に「あ、ワインって美味しいんだ、これならおいしく飲めそうだ」って気づいてもらえたらと思います。「横濱ワイナリーのワインをきっかけにワインが好きになった」なんて言われたら、このうえなく嬉しいですね。

いざテイスティングへ

写真 左:シャルドネ 右:ホワイトスチューベン

ここからは横濱ワイナリーさんのテイスティングルームで試飲させていただきました。今回試飲したのは「長野県産のシャルドネ」「青森県産のスチューベン」「岩手県産のヤマブドウ」「長野県産メルロー」の4種類です。

――まずはシャルドネ。

去年の秋から取引が始まった長野県安曇野市のシャルドネです。こちらも人の紹介で会いに行ったらたまたま横浜の人が移住してぶどうを作っていると聞きまして。

――横浜にゆかりがある人と出会う確率が高いですね!色調は薄めですっきりした飲み口。クセのない味わいでとても飲みやすい。和食との相性が良さそうな1本です。

日常的に飲めるワインです。海外でよくあるような樽熟成がしっかりかかった味の濃いシャルドネとはまた違う良さを感じてもらえるかと思います。

――樽で熟成したシャルドネっていわゆる「飲み疲れ」しちゃうタイプが多いですが、こういう味わいならキリッと冷やしてするするっと飲めてしまう魅力があります。続いてホワイトスチューベン。スチューベンって赤ワインを造る用のぶどう品種ですよね?

スチューベンは青森県鶴田町から仕入れています。赤ワイン用の品種ですが、白ワインに仕立ててみました。スチューベンで白ワインを造っているのは珍しいと思います。独特のアロマとフレッシュ感を味わってもらえたらと思います。

――香りがとても良く、ぶどうジャムを煮詰めたような甘い香りがグラスにほんのりと立ち込めています。味わいは辛口ながらもフルーティ。スチューベンらしい酸味がうまくまとまっています。

試飲
ヤマブドウ(右から2番目)は色調が濃く、液体のフチが紫色になっている。
右端の赤ワインは長野県産メルロー。

――続いてヤマブドウ。色調も濃くて香りのインパクト抜群ですね。

岩手県九戸(くのへ)村で、おじいちゃんが一人でやっているところなんですけど、すごく良いぶどうを作られるんですよね。そしてうちのヤマブドウは、ワイン好きで有名な辰巳琢郎さんお墨付きのワインです(笑)。

――メンソールやワイルドベリーといった野生的なニュアンスが感じられます。飲み込むと酸味が一瞬際立ちますが、すぐに消えていきますね。ジビエ料理に合いそう。飲み口はフルボディですが、とても飲みやすい味わいに仕上がっています。
最初は「ん!?」という驚きがありますが、だんだんと美味しさが感じられます。美味しい!

ヤマブドウ自体がアントシアニン、ポリフェノールがダントツに多くありますし、飲んだら元気になる酸味があります。うま味と酸味がちょうど良く溶け込んでいるので、私はよくヤマブドウを栄養ドリンクって言ったりしてます。好き嫌いが分かれる味わいではありますけど、リピート率が一番高いワインです。

――たしかに、「どれかもう一杯どうぞ」と言われたら、僕もヤマブドウ選びます(笑)。そしてもう1種類の赤ワインはメルローですね。

メルローもシャルドネと同じ、長野県安曇野市の農家さんから仕入れています。

――メルローはやはり、フランスのボルドースタイルのような、なめらかかつしっかりしたタンニン(渋み)があるイメージですが、後味はサラリとしているのに果実味はしっかり。上品な飲み口だと感じました。

そうなんです。横濱ワイナリーは、味わいのインパクトいうよりは飲みやすさを重視したスタイルなので、「味わいの強さ」みたいなのはあまり感じられないかもしれません。こちらは10月1日にリリース予定です。

――なるほど。「味の強さ」ではなくぶどう本来の自然な優しい味わいを求めている人はとても多いので、これも人気が出そうなワインですね!

テイスティングルームで試飲できるワインは他にもたくさん。自分に合うワインを発見できる楽しみがあるのも横濱ワイナリーの魅力だ。

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取材を終えて

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独学でワイナリーを一から始めた町田さん。人との出会いや縁を大切にされているからこそ、着実にワイナリーを創り上げられたのだと感じました。
ワイン初心者にも親しみやすい味わいを目指す町田さんの想いにも深く共感し、実際に飲んでみると身体に染み渡る美味しさを感じました。いわゆる「飲み疲れしないワイン」ってこういうことかと非常に勉強になった一日でした。
ワインに対して抵抗がある人、いままであまり好きになれなかったという人にこそ、手にとってほしいワインです。

【当記事につきまして】
ライター吉川大智が企画・取材依頼し、記事を作成しました。

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