オチガビワイナリー~北海道余市で「日本一のワイナリー」を目指す落希一郎さんの信念~

オチガビワイナリー~北海道余市で「日本一のワイナリー」を目指す落希一郎さんの信念~

「日本一のワイナリーを余市に造りたい」、そんな想いで2012年に設立されたOcciGabi Winery(オチガビワイナリー)。今回はワイン界では有名な、「僕がワイナリーをつくった理由」という著書も出されているOcciGabi Wineryの落希一郎さんにお話を伺いました。

OcciGabi Winery(オチガビワイナリー)
日本一のワイナリーを目指す落希一郎氏が国内で自身が関与した4番目のワイナリーとして、北海道余市町に2012年に設立したワイナリー。自社畑で収穫し、自社醸造をする本格的なワイン造りを信念としている。毎年ワインがプレゼントされ、収穫の手伝いやワイナリーの見学が無料でできる「ワインの木オーナー制度」の会員数は12,000口を突破。
住所:北海道余市町山田町635
HP:http://www.occigabi.net/

落 希一郎(おち きいちろう)
1948年鹿児島県生まれ。西ドイツ国立ワイン学校卒業後、小樽、長野ではワイナリーやワイン事業の役員として、1992年新潟でカーブドッチ、2012年余市でOcciGabi Winery(オチガビワイナリー)を設立し、経営者として長年ワイン事業に携わる。

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(画像提供)オチガビワイナリー
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温暖化によって、ワインの造り手の人口移動が始まっている

――落さんは西ドイツ留学時代にぶどう栽培・ワイン醸造を学び、小樽、長野、新潟ときて、2012年から余市でワイナリーを始められました。余市という場所に惹かれたのはなぜでしょうか?

ヨーロッパでは温暖化の影響で、かつての有名なワイン産地ではワイン造りができなくなってきています。日本も例外ではなく、暑い上に湿気があり、そして梅雨と台風。そろそろ本州は難しいかなと。

今、一番おいしいお米が作られるのは北海道ですし、かつて北海道ではできなかったピーナッツやさつまいもも栽培されています。北海道の気候自体が、昔と比べるとまるっきり変わってしまったんです。

――温暖化によって北海道がワイン造りの環境に適していってるということでしょうか?

そうですね。かつての大産地、ボルドーが少しずつ北に移動を試行していたり、カリフォルニアの産地が徐々にオレゴンやカナダの方へ。ワインを造っている人たちはいま、静かに移動を始めています。

北海道でもつい20年前まではフランス系のぶどう品種は作れないと言われていたけれど、温度が少し上がっただけでフランス系のぶどう品種が育てられるようになったんです。今後は気候変動に合わせてぶどう作りも適応させなくてはいけないと考えています。

新潟でワイン造りをしていた2000年頃から、気候が暑すぎるようになりました。温暖化の影響で夏の気候が冬の頭までくるようになってしまったのです。秋がなくなって、夏と冬だけになってしまいました。秋がないと、ぶどうは甘くなるばかりで酸がなくなっちゃうんです。

ワイン造りにおいては酸の度合いが非常に大事なんですが、酸のないワインは瓶内熟成させてもおいしくなりません。なので今、造り手はみんな慌てています。

――温暖化がこんなにも影響を与えているんですね。

スキーやスノボができる場所がどんどん変わっているのは知っているでしょう。
温暖化はいろんな人の生き方に影響を与えているんですが、ワインに関しては命の次に大事なぶどうがおいしく作れなくなってしまったから、移動するよりほかないんですよ。

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(画像提供)オチガビワイナリー
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「気がついたらすぐ動く、やりたいと思ったらすぐやる」が信念

――新しい場所でワイナリーを立ち上げる際に、不安はなかったのでしょうか?

当時新潟から余市に移るときに、従業員は165人抱えていたけれど、僕と一緒に行きたいと言った人は一人もいませんでした。当時は『カンブリア宮殿』にも出演した、絶頂のときでしたからね。

「温暖化といっても誰もまだ動いていないよ、みんなが動いてからでいいじゃないの?」と言われましたが、「気がついたらすぐ動く、やりたいと思ったらすぐやる」、これが僕の信念だから、人生のスタンスが違うんです。人生は短いと思っているから。

僕の人生は不安だらけだけど、不安の後ろにあるものは絶望ではないです。むしろ希望がついている不安は、もはや不安ではないでしょう。
僕はいま73歳で、日本の平均寿命を考えるとあと8年しか生きられません。不安があるかどうかではなく、今自分ができることに精一杯取り組むことが大事です。

――なるほど。落さんの信念に忠実に動いた結果、オチガビワイナリーができたんですね。落さんがワイン造りにおいて大切にされていることはなんでしょう?

僕の学びのもとはヨーロッパです。彼らの生き方を知っているから、これは私固有の考えではないと先に申し上げておきます。

私は過剰にたくさん造ってたくさん宣伝して売るスタイルは好みません。畑の規模によって決まった量しか造れないのがワインです。うちは広い畑があるから、去年仕込んだのは72,000本。これがわれわれの「適切な生産量」です。

無理に生産量を広げて、たくさん造ってたくさん稼いで、一体何になるのでしょう?
本物のワインを造ろうと思えば、どこも生産量は10~20万本ほどになります。無理にビジネスを広げても真においしいワインは造れないのです。

お金を稼ぐことが成功の尺度ではありません。たしかに収入がないと生きていけないし、お金は必要です。でも、ビル・ゲイツほどのお金は必要ないでしょう?

そういった意味で、我々のワインを好きになってくれたお客さんに届けば、万人に受ける必要はないのです。そういったお客さんに適切に届けるための顧客づくりとして「ワインの木オーナー制度」を始めました。

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コロナ禍でも動じない顧客づくり「ワインの木オーナー制度」

――「ワインの木オーナー制度」は1万円で8年間、毎年ワインを1本プレゼントされるうえ、ワイナリーの見学ツアーや収穫体験も味わえるという非常に面白い試みですね。

ワイン造りにおいて、お客さんとのマンツーマンの関係を築くことが大事だと、ヨーロッパで学んだからです。

大量生産するとなるといろいろと戦略が必要ですが、適量であれば自分の抱えている顧客で十分。売上第一で無限拡大を考えだした人たちは、みんなコロナで落ちてしまったんじゃないでしょうか。自社畑で自社醸造をする本格的なワイン造りをしているなら、その畑でしか取れないから生産量は決まっているはずです。
結果論になってしまいますが、無理に大きくせず、コアなファンづくりをしていたのが賢明な判断だったのではと思います。

――現在、第三次オーナーを募集していますが、期限はありますか?

むやみやたらに増やそうとはしていません。現在12,000口のオーナーがいますが、お客さんの質がとても良いので。会員さんにはワインを渡すだけでなく、収穫のお手伝いをしてもらったりしていて、いい関係を築いています。

ここからは、実際にワインをいただきながら…

左:白ワイン「ゲヴュルツトラミネール」、右:赤ワイン「キュベ・カベルネ」

今回、落さんのご厚意でご提供いただいたオチガビワイナリー黒ラベルの「ゲヴュルツトラミネール」と「キュベ・カベルネ」を特別に試飲させていただきました。

ここからは、ソムリエである筆者が実際にワインをいただきながらお話を伺っていきます。

――まずは白ワイン。ゲヴュルツトラミネールはアロマティックな芳香でライチやバラのようなアロマを感じます。飲み口はフルーティでありつつも、ドライな仕上がりですね。日本でゲヴュルツトラミネールを造っているのは珍しいのでは?

ゲヴュルツトラミネールを造っているのはうちを含めて数軒だと思います。ゲヴュルツトラミネールはうちの人気品種で、生産量は毎年2,000本くらい。すぐ品切れしちゃいますよ。

辛口に仕上げていますが、香りが独特なので、ワイン単独で楽しんでほしいですね。料理とのマリアージュを気にせず飲んでほしいワインです。食前酒として楽しむのもいいでしょう。

――続いて赤ワインですが、シルキーなタンニンで飲みごたえのある飲み口です。お肉料理と相性が良さそう!そしてカベルネ・クービン、カベルネ・ドルサ、カベルネ・ミトス、パラスと聞いたことのない珍しい4種類のブレンド。オチガビワイナリーさん独自のブレンドですね。

北海道の気候には向いていないカベルネを、ドイツ品種と交配して作られたのがこれらのぶどうです。北海道でもこういった重厚なワインを造れるのです。

カベルネ・クービンは名付け親の栄誉を受けたけれど、1人で抱え込まないで、これから国内に広めていきたいなと思っています。それが結果的にワイン産業の底上げになるからと思っているからです。苗木がほしい方がいましたら、ぜひ言ってほしいです。出し惜しみはしませんので。

落さん
(画像提供)オチガビワイナリー
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同じものを二度と味わえない体験こそが、究極の贅沢

――赤ワインのブレンド比率は毎年変えているのでしょうか?

4種類のぶどうのブレンド比率は、収穫された量で全部仕込むので、毎年微妙に変わります。
そもそも、ワイン造りにレシピはありません。毎年全く同じ味に仕上がらないからこそ、面白みがあると思っています。ある年のワインを1本飲んだら、その味わいとは今生のお別れです。永久に同じワインは飲めない。
ここに真のワイン好きが惹かれる理由があります。

――信念のあるワイン造りと堅実な顧客づくり、とても素晴らしいです。飲み手にもその思いは伝わると思います。

僕のワインが世界で何番目だ、コンクールを受賞したなんていうのは関係ありません。僕のワインを好きでいてくれるお客さんの分だけ造れればいいんです。その人たちが喜んでくれればコンクールや金賞をとったかどうかなんて関係ない。大事なのは造り手の愛情なんです。

とにかく無理にビジネスに走らない。経営やお金のことはあとから付いてくる。ワイン造りに限らず、これが正しい仕事のあり方だと、僕は考えています。

取材を終えて

落さんのまっすぐなワイン造りへの思いを拝聴し、いち飲み手として非常に感銘を受けました。ワインだけでなく、あらゆるものに言えることですが、生産者の思いを聞いた上でいただくとより一層おいしく感じられるのだろうと思います。

落さんの誠実な人柄と魅力的なお話にすっかり魅了され、取材後、「ワインの木オーナー制度」にもさっそく申し込みました。

1万円の出資で8年間毎年ワインが送られてくるのはお得ですし、タイミングが合えば収穫のお手伝いやワイナリー見学もできるということで今後が楽しみです。

今回はコロナ禍でZOOMでのオンライン取材となりましたが、魅力的なお話を沢山聞かせていただきました。落さん、ありがとうございました。

【当記事につきまして】
ライター吉川大智が企画・取材依頼し、記事を作成しました。

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