チーズの王様「エポワス」、“臭い”だけじゃない芳醇な魅力とは

チーズの王様「エポワス」、“臭い”だけじゃない芳醇な魅力とは

チーズを洗って熟成させるウォッシュチーズの中で最も有名で、特別な存在感を持つエポワス。「美味礼讃」の著者である美食家で政治家のブリヤ・サヴァランが「チーズの王様」と称え、ナポレオンも好んだとされるこのチーズは、16世紀に生み出され、途中消滅の危機を乗り越え、今なお多くの人を虜にし続けています。

「神様の足のにおい」と形容され、臭いものの代表格と思われがちなエポワスですが、ワイン造りの過程で出るぶどうの搾りかすを原料にした蒸留酒「マール・ド・ブルゴーニュ」でウォッシュしているので、個性的でありながらも芳醇な香りです。

しっとりと艶やかなオレンジ色の表皮、中身はトロリと黄味がかったクリーム色。一口食べると表皮の香りとは裏腹にミルクの優しい甘味、バランスの良い塩味がすっと舌に馴染み、ウニのようなまろやかなコクと旨味が口の中いっぱいに広がります。
その長い余韻をブルゴーニュの赤ワインと楽しむ。これぞ正に至福の時!

初めての人はその個性的な香りに思わずのけぞるかもしれませんが、食わず嫌いはあまりに勿体ない。初めての人もそうじゃない人もこのチーズの事をさらに知って味わってみてくださいね。

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エポワスの故郷と歴史

エポワスの古城
エポワス城への入口(画像出典)WIKIMEDIA COMMONS

このチーズの故郷は、パリから南東へ250km、ワイン銘醸地であるブルゴーニュ地方の風光明媚なエポワス村。

その歴史は16世紀頃まで遡ります。
シトー派の修道士が考案したといわれています。修道士達は年間100日を超える断食日には肉を食べることが禁じられていたため、チーズは重要な栄養源でした。

18世紀フランス革命期にキリスト教廃止運動の影響で修道院は閉鎖、修道士達は地元の農民に秘伝のレシピを伝授しました。農民たちはその製法を継承、品質向上に成功し、20世紀初頭には300軒以上の生産者がいました。

その後2度の大戦で伝統的なチーズ作りは廃れていき、1950年代にエポワスは消滅の危機にさらされます。

しかし1956年、幼い頃から見てきたチーズ作りを復活させたいと強く思ったロベール・ベルトー氏夫妻がエポワス村に会社を立ち上げ、エポワスの生産を再開させます。ロベール氏は年老いた農婦達から昔ながらの製法を学び、徐々にパリのチーズ商達からも支持されるようになり、エポワスは見事に復活を遂げました。

エポワス城の望楼をモチーフにしたマークで知られるベルトー社のエポワスは皆さんも見たことがあるかもしれません。
1991年にはAOC(フランスの原産地名称統制)の認可を受け、現在はブルゴーニュ地方の4つの工房で生産されています。
高級ワインと肩を並べるこの地方の逸品なのです。

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エポワスのDATAと製造方法

エポワス
(画像提供)フェルミエ

産地:
フランス・ブルゴーニュ地方のコート・ドール、ヨンヌ、オート・マルヌ、各県の指定村落。
大きさ:
直径9.5~11.5cm、高さ3~4.5cm、重さ250~350g。直径16.5cm~の大型もあり。
牛の品種:
ブルーノ種、モンベリアルド種、シンメンタール種の牛のミルクのみ

ゴーグリー社の製造風景
ゴーグリー社の製造風景

搾りたての牛のミルクを25℃~30℃に加熱し、ウォッシュチーズには珍しくレンネット(凝乳酵素)を少量加えて乳酸菌主体で凝固させます。ゆっくりと時間をかけて固めることでなめらかな質感になります。

自然の状態で時間をかけて水切りし、粉塩で加塩し涼しく換気の良い乾燥室で乾燥させてから湿気のある熟成庫へ。
最初、真水か塩水で洗い、その後マール・ド・ブルゴーニュで優しく洗います。この作業をマール酒の濃度を上げながら週に1~3回、4~8週の熟成期間、丁寧に注意深く行います。

ウォッシュチーズの多くは植物性のアナトー色素を表面の色付けに使っていますが、エポワスは使用が禁止されており、リネンス菌(納豆菌の仲間)の働きが独特の風味を引き出し、このオレンジ色を作ります。
こうして丁寧に手間暇かけてつくられるエポワス、少々お値段も張るわけです。

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美味しい食べ方

エポワス2
(画像出典)PIXTA

食べる30分程度前に冷蔵庫から出し、必ず室温に戻しましょう。

熟成が若いうちは放射状にカット。むっちりとした食感と優しくミルキーな味わいです。
賞味期限が近づくと中身がトロトロになってくるので、スプーンですくって。塩味もしっかり、濃厚な味わい。パンがあるとさらに美味しくいただけるでしょう。ライ麦のパンは、特に相性が良くておすすめです。

ソテーしたホタテの貝柱やエビに、エポワスを生クリームと白ワインで溶かしたソースを合わせるのも定番の美味しさ。焼き海苔で巻いて一口おつまみに、など、エポワスは意外にも日本の磯の香にも合います。

相性のいい飲み物

コート・ドール村
コート・ドール村(画像出典)PIXTA

同郷ブルゴーニュの赤ワインです。
ナポレオンはエポワスとジュヴレ・シャンベルタン(ブルゴーニュ地方のワインの銘醸地で、最も偉大なワインを生み出す産地コート・ドールの代表的な村)の組み合わせを好んだと語り継がれていますが、これが本当に好相性です。

エポワスの個性がワインの味を邪魔してしまうのでは、と思われがちですが、これが合うんです(キッパリ)!同郷の者同士はやっぱり合う。エポワスには、ブルゴーニュの赤ワインの中でも、ジュヴレ・シャンベルタンやフィサン等力強いタイプのワインをおすすめします。
しっかり目の白ワインや日本酒の古酒、焼酎とも好相性です。

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最後に

地域限定の牛のミルクと地元の蒸留酒を使い、指定地域でのみ生産されるエポワスはその土地のテロワールが生んだ奇跡といえるでしょう。あなたをきっと笑顔にする偉大なチーズです。相性のいいワインやパンを用意し、時間をかけてじっくり向き合ってみてくださいね。

画像協力:ナチュラルチーズ専門店 フェルミエ
https://fermier.co.jp/

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