アレルギー専門医に聞く!食物アレルギー児の保護者が知っておきたい最新常識2020

アレルギー専門医に聞く!食物アレルギー児の保護者が知っておきたい最新常識

入園・入学を控えたこの季節。食物アレルギーのお子さんを持つ保護者の方々は、門出を喜ぶ気持ちと同じくらい新しい環境への不安も感じていらっしゃることでしょう。

目の届かない場所で何かあったら?
園や学校とはどう付き合っていけばいい?
自己判断で除去してる場合、給食はどうなる?

そんな疑問は、正しい知識を身につけることで解決できる可能性があります。

そこで今回は、アレルギー専門医である「ひばりがおかこどもとアレルギーのクリニック」の平林靖高院長と小児アレルギーエデュケーターの資格を持つアレルギー科師長の若林由花さんにお話を伺ってきました。

アレルギーのある長男の小学校入学を控えているhitotemaライターの野田真実さん(アレルギーフリー食研究家)と一緒に勉強してきた内容をレポートします。

【hitotema編集部注】
取材は2020年2月ですが、2021年3月に平林先生に内容を再確認していただきました。また、法改正にともない「特定原材料27品目」の表を「特定原材料28品目」に差し替えています。

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2021年現在の食物アレルギー治療とは

平林靖高院長

――まず、最近の食物アレルギー治療の方針についてお伺いしたいです。

平林院長
「最近は、『食べられるか食べられないか』のオールオアナッシングではありません。食べられる範囲で美味しく食べよう、というのが基本です。もちろんそのためには医療機関を受診し、問診、検査、どの程度食べられるかの負荷試験を行うなど正しい診断が必要になります」

――「えび・かに・そばなどの強力なアレルゲンは、食べるのを遅らせるほうがいい」という話も聞きますが、それは本当ですか?

平林院長
「実は、その話は徐々に覆されつつあります。こんなデータがあるんですよ」

  • 乳児期からピーナッツ蛋白を摂取していた児の方が、摂取していなかった児に比べ、5歳の時点でのピーナッツアレルギーの発症率が有意に低かった。(英国の研究結果『LEAP study』)
  • 生後4,5ヶ月の時点でアトピー性皮膚炎と診断された乳児において、生後6ヶ月から加熱全卵粉末を摂取した群と除去を継続した群とを比較した結果、1歳の時点での鶏卵アレルギーの発症率は、加熱全卵粉末を摂取していた群の方が有意に低かった。(日本の研究結果『PETIT study』)

※有意に…統計学的に偶然や誤差とは考えられないということ

――早く食べていたほうがアレルギーの発症率が低かった、ということですか?

平林院長
「はい。つまりこれらの結果から『乳児期から食物を摂取することによりその後の食物アレルギーを予防できるのではないだろうか』と考えられるようになっているのです。『食べるのは遅らせる方がいい』という考え方とは“真逆 ” ですね。少なくとも現在は、『特定の食物を遅らせることは、食物アレルギーの発症を低くするとは言えない』と考えるのが一般的になりました。病院に行きやすい平日の昼間に少量から、ということを守りつつ、いろいろ食べてほしいですね」

――自分でも勉強したい場合におすすめの本はありますか?

平林院長
「食物アレルギーの権威である伊藤浩明先生の本がおすすめですね。『おいしく治す 食物アレルギー攻略法 改訂第2版』はとてもいいと思います」

編集部注:
ご紹介していただいた本の通信販売はアレ支援ショップのみですが、Amazonや楽天ブックスには、離乳食やおやつの本、おでかけガイドなど伊藤先生の著書があります。

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自己判断で除去せず、専門医の診断を

特定原材料28品目
特定原材料28品目(画像出典)PIXTA

食物アレルギーがある場合、入園・入学にあたって園や学校に知らせる必要があります。とはいえ、以下のように、医師からの正式な指示なく除去している人も多いかもしれません。

  • 食べると口の周りが赤くなるから食べさせていない
  • すごく嫌がるから食べさせていない
  • 半日~1日後に吐くことが多い気がするから食べさせていない
  • 血液検査でアレルギー反応があったので食べさせていない
  • 両親や祖父母にアレルギーがあるので食べさせていない

こういうケースは、どうすればいいのでしょうか。

平林院長
「どれもよく相談を受けるのですが、必ず診断を受けてください。特に困るのが『食べさせていない』ケース。食べたことがなければ、医師も園・学校も何も判断できません。『食べたことがないので除去してください』は、お互い不安なまま入園・入学することになりますので、できれば入園までに準備していただけると安心ですね。 もちろんお子さんの年齢にもよりますが、 『未摂取での除去』は、エチケット違反だと言ってもいいくらいですよ」

野田さん
「目安として、入園や入学のどれくらい前から準備を始めればいいですか? 」

平林院長
「だいたい半年くらい前ですね。それくらいあれば、もし何か症状が出ても園や学校に提出する資料を作成できるだけの診断がつきます」

――診断や定期通院での負荷試験などに多額の費用がかかったりはしないのでしょうか?

平林院長
「自治体により異なります。乳幼児は無料になる(乳幼児医療など)自治体もあれば、3割負担の自治体もありさまざまですので、お住まいの医療制度に従っていただく形になります」

――ただ、受診したけどアレルギー検査を断られるという話もよく聞きます。

平林院長
「ありますね、私も『今は検査はしなくていい』と言うことがあります。というのも例えば、『青魚を食べて口の周りが赤くなる』なんかはとてもよくある症状で、アレルギーではなく魚の脂に反応していたり、傷んだ魚に含まれるヒスタミンに反応していることも多いんです。そういう可能性が高いと判断した場合は、『まずは新鮮なお魚で試してみたり 、調理法を変えてみてください 』というアドバイスになりますね。状況や症状を聞いて判断しています」

――そこまで言ってもらえると、納得できますね。でも、「検査不要」だけだと、どうしていいかわからなくなりそうです。

平林院長
「小児科医全員がアレルギーに詳しいとは限らないので、アレルギーに関してはアレルギー専門医のいるクリニックで相談することをおすすめします。専門医でない小児科の先生でも勉強されている方はたくさんいますが、アレルギー専門医に聞くほうが『おそらくアレルギーではない』『いまは検査不要だけど、しばらく様子を見ましょう』といった場合に、より正確で丁寧な説明を受けられる可能性が上がると思います。アレルギーであるかどうかは、症状の再現性があるか、血液検査(皮膚検査)で陽性であるか、食物負荷試験が陽性であるかといった情報をもとに総合的に判断されるものです」

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園や学校とどう付き合えばいい?

(画像出典)PIXTA

アレルギーがある場合は、学校や園に報告する必要があります。しかし、どんな風に伝えればいいのか、特別対応を求めてもいいものか、といった悩みは尽きませんね。

若林さん
「園で誤ってアレルゲン入りのおやつを食べてしまって保育士さんに連れてこられる子がたまにいるのですが、保育士さんだけでなくお迎えに来る保護者の方も申し訳なさそうにしているんですよね。アレルギーのあるお子さんを預けるということは、保護者の方にとっても思うところがたくさんあるのだろうなと感じています」

野田さん「わかります……。それに、各園・各学校によって対応がバラバラなので情報収集もしにくいですし、先生方にこちらの希望がうまく伝わらないこともあります」

平林院長
「小学校は『学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン』に則るのですが、それでも地域性により差がありますし、幼稚園や保育園になると本当に対応の仕方がバラバラですね」

――対応策はあるんでしょうか?

平林院長
「 『知識がないから無理』『エピペンを持っている子は無理』といった理由で断られるときは、かかりつけのアレルギークリニックに相談してみてください。クリニックが園や学校に必要な講習することもできます。クリニックとしても、どの園・学校の知識が足りていないのか判断がつかないので、そういう情報はありがたいと思いますよ」

若林さん
「この園は誤食(アレルギー物質入りの食品を誤って食べてしまうこと)での受診が多いな、と思ったときは、こちらからアプローチすることもありますけどね」

――園選びも重要なんですね。

平林院長
「そうですね。園により対応が異なるので、園を決める時に色々な園の対応をしっかり自分で調べていただくことが大切ですね」

野田さん
「6大アレルゲン除去の給食がある園や、アレルギー対応の給食を個別調理してくれる園もあります。園によっていろいろですね」

――入園、入学後に定期通院が続く場合、園生活・学校生活に支障はないものでしょうか?

平林院長
「定期通院は、園や学校から帰宅してから受診できる病院も多く、夕診・土曜日の受診を行うなど、園や学校生活に大きな支障がないようにする事は十分可能ですよ。また、食物経口負荷試験なども夏休みなどの長期休暇で行うこともできます」

――それなら安心ですね。学童保育は対応がまた違いますか?

平林院長
「学童保育はスタッフさんの入れ替わりも激しいので、知識の周知は難しいですね。学童保育のおやつは、持参するのがいいと思います」

管理指導表は、”事実 ” を記載する資料

学校や園との付き合い方の話が出ましたが、入園・入学にあたって必要になるのが「アレルギー疾患生活管理指導表」です。
食物アレルギーのある長男の入学を控える野田さんも、まさに当事者です。

――管理指導表とは、どういったものですか?

平林院長
「どんなアレルギーがあって、どれくらい食べられて、どの様な症状が出て、どの様に対応するかを伝える資料です。園・学校が参考にできる唯一の公式資料なので、とても重要ですよ。医師が記入する診断書ですので、文書料が発生することが多いです」

――『食べられる範囲で美味しく食べよう』が最近の傾向だということでしたが、そういう細かい部分も伝えられるのでしょうか?

平林院長
「どこまで対応できるかは園・学校や地域にもよりますが、『エビのスープもダメなのか、スープからエビを取り除けば大丈夫なのか』『触ってもダメなのか、食べたらダメなのか』といったことがわかっていれば、食べられるものやできることは増えますよね。そういう意味でも、時間をかけた診断がとても大事なんです」

野田さん
「入園や入学の直前まで治療していなくてデータが足りないときはどうされるんですか?」

平林院長
「時々、入園まで診断されていない、食べたことがないといって、急に管理表の記入だけを求めて来院される方も少なからずいらっしゃいます。しかし、そんな時もまずはしっかり問診をし、必要であれば早急に血液検査・皮膚検査・負荷試験などを行います。そして、しっかり診断した上で管理指導表を作成します。安心安全な園・学校生活を送っていただきたいですからね」

――やはり、まずは食べることが大事なんですね。

平林院長
「そうです。『牛乳が嫌いだからアレルギーだと書いてください』『エビ・カニを食べさせたことがないからアレルギーだと書いてください』といった依頼も実はかなり多いんですよ。でも事実だけを書く資料ですから、そういうことは書けません」

野田さん
「よく聞く話ですね……」

――それは、本当にアレルギーがある人にとって非常に迷惑な行為ですよね?

平林院長
「もちろんです。でも、アレルギーについての知識がないと、そういう発想にもなってしまうんです。『アレルギー疾患対策基本法』という啓蒙活動を支援できる法律もできたので、アレルギーに関する知識をより広めていきたいですね」

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お友達との関係はどうする?

(画像出典)PIXTA

入園、入学により子どもの交友関係は一気に広がります。おやつを渡す際の「アレルギーある?」という確認は徐々に普及しているものの、親がそばにいられない時間が増えるとやはり心配です。

平林院長
「 自分のアレルギーについてきちんと話せるよう、家族で日常的にコミュニケーションを取っておくことがまず大切ですね 」

――「卵がダメ」ときちんと伝えている子に、相手の子が「これ入ってないよ!」とクッキーをあげようとしている場面に遭遇したことがあります。慌てて止めましたが。

野田さん
「あるあるですよね」

若林さん
「いまは生クリームではなく豆乳クリームを使ったお菓子も多いですから『うちの子は自分が乳アレルギーなことは知っているけどケーキは食べられると思っているので心配』という親御さんもいらっしゃいます」

平林院長
「ですね。重症の食物アレルギーのお子さんの場合であればおやつは持参したものしか食べないと決めておくのがいちばん安心ではあります。あと、遊び場を変えるときは必ず親に連絡するというルールを作っておくことも大事です」

――といいますと?

平林院長
「公園で遊んでいて、おうちに行こうよと誘われる、おうちに行くとそこのおかあさんがみんなでどうぞとお菓子を出してくれる――とか、目まぐるしく状況が変わると、子どもは親子で決めた約束事を忘れてしまいますからね」

――なるほど!

平林院長
「親同士のコミュニケーションも、もちろん重要です。お願いしづらいと思うかもしれませんが、何かあると相手もつらい思いをするので、食べられないものを把握しておいてもらえるほうがお互いのためです」

エピペンは「繰り返しの練習」と「迷ったら打つ」

アナフィラキシーショックの症状の進行を一時的に緩和させるためのエピペン(アドレナリン自己注射薬)。もしものための薬なだけに、いざというときにきちんと使えることが重要です。

若林さん
「定期的に練習するのがいちばんなのですが、なかなか難しいんですよね。エピペンの有効期限は1年なので、交換するタイミングで必ず練習すると決めておくのもいいと思います」

――注射する怖さや間違ったらどうしようと怖さでなかなか踏み切れないそうですが……。

若林さん
「エピペンを打つ基準はありますが、『迷ったら打ってください』と指導しています。心臓などの基礎疾患がないかぎり、軽度の状態で打っても動悸がするという程度で身体に大きな悪影響が出ることは少ないです。基本手順である内服薬→エピペンが逆になっても大丈夫です」

参考:エピペンガイドブックエピペンサイト

その他、若林さんによるとエピペンを打つ際に気を付けるのは以下の点だそうです。

  • 子どもが動くことによる裂傷を防ぐため、固定する
  • いちばん不安なのは子ども自身だということを忘れない
  • 焦って練習用を打ってしまわないよう、練習用と本物は別々に保管する
  • エピペンの効果は一時的なので必ず救急車を呼ぶ(自家用車で行かない)
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アレルギー対応は「おたがいさま」の心で

ひばりがおかこどもとアレルギーのクリニックの待合室

――今日のお話、本当に勉強になりました。ありがとうございます。

野田さん
「園や学校との交渉で困ったときにクリニックに相談するという発想はなかったです」

平林院長
「アレルギーがあっても安心して子育てができる環境を目指したいですね。とはいえ、園や学校の対応力にも限界がありますから、なんでもやってくれと要求しすぎるのはよくないと思っています。どちらにも、おたがいさまという心が必要ですね」

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入園・入学により、子どもの交友関係は一気に広がります。新しくできるお友達の中に、食物アレルギーを持つお子さんもいるかもしれません。また、大人でも突然アレルギーを発症することがありますので、アレルギーの基礎知識を持っておくことはとても大切な[…]

アレルギー専門医に聞く!アレルギーがなくても知っておきたい最新常識2020

ひばりがおかこどもとアレルギーのクリニック

住所:愛知県名古屋市瑞穂区弥富町紅葉園6番1
電話番号:052-837-0303
休診日: 木曜午後、日曜、祝日、土曜午後
公式サイト: https://hibarigaoka-kids-allergy-clinic.jp/

【hitotema編集部注】
当記事は広告記事ではありません。
平林院長に取材をお願いしたところ、ご快諾いただきお話していただきました。

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