毎日の食事の時間を楽しく。よしざわ窯(栃木県・益子) #暮らしのうつわ vol.1

毎日の食事の時間を楽しく。よしざわ窯(栃木県・益子) #暮らしのうつわ

栃木県益子町にある、日常使いのうつわを作る窯元「よしざわ窯」。公式の通販サイトには毎週うつわが入荷しますが、商品が追加されるやいなや、すぐに完売になってしまう人気ぶりです。

「よしざわ窯」のうつわはビビッドなレモンカラーのお皿やブルーの鳥の小鉢など、独創的なモチーフと色が多いのが特長です。これまでの益子焼のイメージを大きく覆したデザインはどこからやってきたのでしょうか。全国のうつわ好きから今、熱い注目を浴びている「よしざわ窯」で、窯元のヒストリーやデザインに込められた思いを伺ってきました。

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「よしざわ窯」の始まりの物語

江戸時代末期に栃木県益子町で始まった益子焼は、すり鉢や水瓶などの生活道具が作られてきました。その後、柳宗悦と共に民藝運動を提唱した陶芸家・浜田庄司が益子に移り住んで民芸風の食器や花器を作陶します。民藝運動とは、庶民の暮らしの中で使われてきた手仕事の日用品の中に「用の美」を見出し、活用する日本独自の運動のこと。

昭和40年代に起きた民芸ブームとともに、益子焼は大きく発展。浜田庄司が作り出した厚みのあるぽってりとしたフォルムに加えて、赤茶色の柿釉や黒釉、飴釉の渋めの色合いからなる民芸風のデザインは益子焼の特徴として定着しました。

「よしざわ窯」が作るうつわは、そんな従来の益子焼のイメージを大きく覆すデザイン。そんなうつわ達が生まれたきっかけは何だったのでしょうか。

これまで和の皿の印象が強かった益子焼。
「よしざわ窯」はこんな西洋モチーフのうつわが多く、洋食文化が根付いた現代の日本の食卓にもマッチしています。

「もともとここは両親が営んでいた窯でした。僕たち夫婦に2人目の子供が生まれたのをきっかけに、妻は勤めを辞めたんです。折しも2000年頃はインターネットでモノを売ることができるようになった時期。妻は両親の作ったうつわを工房から持ち帰って来てはアパートで白い布を敷いて撮影をして、友達に作って貰ったサイトに載せて売りだしたのが始まりです。」

そう語るのは「よしざわ窯」の代表を務める吉澤泰久さん。もともと奥様は独身時代からうつわを集めるのが好きだったこともあり、子育てしながら家でできる仕事をと始めたのがうつわの通販でした。次第にサイトから注文が来るようになり、2005年には吉澤さん自身も会社を辞めて合流。弟や手先の器用な同級生を集めて両親の窯を継いだのだといいます。

「最初はただの白い小鉢を作っていました。ところが、ある女性が2010年に小鉢がレモンに見えると言い出したんです。レモンらしくボツボツをつけてみたら今度は“レモンは白じゃなく黄色だ”と。黄色いうつわなんて本当に大丈夫か?と不安でしたが、作ってみたら思いのほか売れたんですよ。」

ユニークアイデアから予想外のヒットが生まれたわけですが、次の商品開発でも女性の発想力が冴え渡りました。

「小鉢がレモンに見えると言った女性スタッフの発案で、今度は取り鉢の“取り”を鳥にひっかけて、鳥の鉢を作ろうということになったんです。最初は白い鳥の鉢でしたが、妻が“青い鳥にちなんで青色にしよう”と言い出した。青なんて食欲を削ぐ色ですから、僕はかなり不安で抵抗感がありましたよ。でも、妻は“このほうがかわいいから”と。」

吉澤さんにとって大きな分岐点となった鳥の鉢とレモンのお皿。
これまでで最大のヒットであり、ロングセラー商品となりました。

半ば押し切られるように青い鳥の取り鉢を制作。そして吉澤さんの心配をよそにうつわは大ヒットしました。お皿とはこうだ、という既成概念が女性のルールブックにはないことに気付かされたといいます。

「この色や形はダメ、ではなく“それはかわいいかどうか”なんですよね。その女性特有の感性は男性には理解できない領域だと思いました」

今や「よしざわ窯」のアイコン的な存在となった2つのうつわの誕生には、ここで働く女性たちの豊かな発想力があったのですね。

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かわいいかどうか。フィーリングを大切にしてアイデアを練る

作業場の風景。ものづくりが好きな人が自然と集まってきたそうです。
釉薬掛けをする男性スタッフは、全員が焼き物作家としても活動している人達なのだそう。

「よしざわ窯」は20人近いスタッフを抱える窯元となった現在でも、うつわのアイデアは吉澤さんと奥様が話し合って決めているといいます。

「思いついたアイデアはスマホにメモを残して、顔をあわせると夫婦でうつわの話ばかりしていますね。たとえば妻が“メリーゴーラウンドってかわいいよね”といってきたら僕はメリーゴーラウンドじゃうつわにならないよとか、アイデアを夫婦で話し合って月に1回スタッフを交えて実際に商品へ落とし込んでいきます。」

大切にしているのは“女性が見てかわいい、使ってかわいい”と感じて貰えるうつわを作ること。奥様は「自分がどんなうつわを使いたいか」「どんな色だったら料理が映えるか」「何を載せたくなるうつわか」といったことを意識してアイデアを出しているのだそうです。

日常使いのうつわが100円ショップやロープライスのインテリアショップでも、安くて手軽に買える時代。「売れるのは決して安いからだけではない」と思った吉澤さんは、売れ筋の商品の質感や形など、それらのショップを巡って研究を重ねたとか。

900円台から手に入る小皿や1,000円台の取皿など、どれも手に入れやすい価格設定。
1回のお買い物で5,000円くらい使うお客さんが多いそうです。

「大量制作のうつわと価格では勝てないけれど、『よしざわ窯』のうつわはリーズナブルな価格設定にしています。というのも、うつわって家族で使うものなんです。4人分の4枚を買って1万円では日常使いのうつわではありませんよね。いくらだったら気軽に買って貰えるかを考えています。」

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大切に育ててきた通販サイト『on the table』のこと

創業時から今もなお販売の場はWEBが中心。現在のサイト『on the table』はECサイトが作れるサービスを利用し、写真を撮ったり文章を書いたりといった更新作業を自社の制作チーム4人で行っているそうです。

意外だったのはECサイトの制作チームや編集チームにその道のプロがいないこと。すべて手探りで反応を見ながらやっているという話には驚きでした。ちなみに「台所道具みたいな器」「カクカクした器」「森の器」など、独特のユニークなカテゴリ分けについて聞いてみるとこんな答えが返ってきました。

「以前は皿、鉢、小物、その他で分けていましたが、うちで作るうつわはお皿が中心なので鉢や小皿、その他があまりなかったんですね。そこで動物や食べ物などお皿の種類に変更して、好みの形から探して貰えるようにしました。」

明るい光がたっぷり降り注ぐ作業場。制作スタッフが作業するお部屋の壁一面には、これまで作ってきたお皿がぎっしり。サイトやInstagramなどSNSに載せる写真も、すべてここで撮影。

作業場の一画にはキッチンも完備。ものづくりが好きな人が自然と集まった職場とは聞いていましたが、焼き上がったうつわに載せたら映えるフードをみんなで考えて、撮影のために調理や盛り付け、テーブルコーディネートも自分たちで行っているそうです。うつわを愛おしく思う気持ちが写真から伝わってくるのも納得でした。

あいにく取材日は撮影をしていませんでしたが、ここで料理をして盛り付けて……と和気あいあいと作業している光景を想像してしまいます。

うつわを買ってくれた人に願うこと

催事への出展もしていないため、自社の通販サイトと年2回の陶器市が買い物客との直接の接点だと語る吉澤さん。作ったうつわの情報をサイトにただ載せて終わるのではなく、会員にきちんと届くようにメールマガジンを配信しています。登録者数は4万人を超え、配信後から発売日まではサイトへのアクセスも急増するそう。

「これは僕たちとお客さんとのキャッチボールのようなもの。どんなふうにうつわをみせるか、編集部と制作チームでアイデアを出し合いながら文面を作って、地道にずっと続けてきました。買った人からの感想はメールで届くことが多いですね。メールはスタッフ全員と共有していますが“何を載せようか子供と一緒に考えるのが楽しいです”とか、そうした嬉しいメールが届くと1日がハッピーな気持ちになります。逆に直接手にとって買われるわけではないので、“思っていたのと違う”といったクレームもありますがこれも1日落ち込みます(笑)。」

最後にうつわを買ってくれた人へ伝えたい想いを質問してみました。

実際に使ってみた器
使い手にとって、何をのせても絵になるよしざわ窯のうつわ。
いつもの料理もぐっと華やかになって食事が楽しくなります。

「うつわは食卓で使ってこそだと僕たちは考えていて、通販サイトの『on the table』というネーミングもこれに由来します。製法上の理由もありますがうちで作るのは花器や壺など飾るものではなく、日常使いのお皿が中心。作るのも考えるのも毎日食事を用意することって、ややもすると煩わしいものですよね。それがお気に入りのうつわを使うことで少しでも楽しくなって貰えればと思っているんです。」

使う人たちの日常生活にまで思いを馳せて作られる「よしざわ窯」のうつわ。ただ見た目がかわいいだけの食器ではなく、使う人の日々の暮らしにまで目を向けて作られたうつわなんですね。

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取材を終えて

新型コロナの影響で家の中のことにお金をかける人が増えた、いわゆる巣ごもり消費に注目が集まる昨今。『on the table』のアクセス数もそれまでに比べて、確実に増えているといいます。しかし、1日に出来上がるうつわの数は300個程度と決して多くはありません。そのため、発売まもなくSOLD OUTになることも。こんな時期だからこそ、多くの人が毎日のおうちごはんをウキウキワクワクさせてくれるお気に入りの1枚を探しにきているのかもしれません。

これからどんなときめくうつわがまたリリースされるのか、ずっと楽しみに待ち続けたくなる、そんな窯元でした。

よしざわ窯『on the table』
https://www.yoshizawa-gama.com/

【当取材記事につきまして】
ライター大浦春堂さんが企画・取材依頼し、記事を作成しました。

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