居酒屋のメニューというのは、その土地の人々が食べたいものの集大成。
私は旅に出ると必ず、歓楽街を歩いて居酒屋のメニューを見比べて歩きます。
マグロの刺身に焼き鳥、枝豆といった全国で定番のものの中に、必ず何かしら見慣れぬメニューがあるから。そしてそれは、地元のひとが愛してやまないものである確率が高いんです。

富山県を訪ねたときは、「ばい貝」の文字に目を引かれました。刺身の筆頭にする店もあり、煮つけや串焼き、塩焼きにバター焼きと、調理法が幅広いのも印象的。
「富山湾の名産物のひとつですからね」
「年中獲れるものだし、富山の人たちはいつも食べてますよ」
そんな声がよく聞かれました。愛されてるなあ……ばい貝!

刺身でいただくと、ほどよくコリッとした食感と豊かな甘みが特徴。歯ざわりを楽しんで、じっくり噛んで味わったところに燗酒でも流し込むと……ああ、たまらない。鼻に抜ける香りがまた、ごちそうだ。

この原稿を書いている折、ちょうど北陸のばい貝が手に入ったので煮てみました。よく洗ってから、酒、みりん、醤油でシンプルに煮つけ。
「沸いたら落としぶたをして5分ぐらい中火で煮るの。そのまま自然に冷ましてしばらくおくと、味がなじむから」
富山で居酒屋のおかみさんに習ってきたのを思い出しつつ。さあ、火を止めて30分ほどおいて味見。おー………なんともコクのある、いいダシが出るもんだ。今度は冷酒を合わせましょうか。
調べてみたらばい貝は、富山のプライドフィッシュ(※)にも選ばれていました。「ばい貝」というのは総称なんですね。刺身にされるのは大ぶりのオオエッチュウバイという種で、小ぶりで煮つけによくされるのはツバイという種なのだとか。そのほか2種類の貝が富山では「ばい貝」として流通しているそう。

さて、富山市から電車で北東へ20分ほど、魚津市で「ばい貝の旨煮」なるものを見つけました。目の前がすぐ富山湾、魚津漁協につとめる知人が「ここのはモノがいいから」と教えてくれた『ハマオカ海の幸』さんにて。魚介の加工食品を生産・販売されるお店です。

こちらの旨煮は、むかれたばい貝を、細切りショウガと甘辛く煮つけたもの。
「そのままでもおいしいけれど、ゴボウやニンジンと炊き込みごはんにすれば、郷土料理の『ばい飯』になりますよ」と教えてもらいました。よーし、早速炊き込みに……と思ったものの、酒好きとしてはゴボウとニンジンでそのまま煮て、つまみにしたい欲求を抑えられず。
うん、やっぱり最高だッ。ゴボウの野趣とばい貝のうま味、素晴らしいペアじゃないですか。今度は大根と煮てみたくなる。
「ばい貝はね、肝も濃厚でおいしい。キットキトのばい貝の肝は、ネギや酒と和えて、刺身と一緒に食べると最高です」と、『ハマオカ海の幸』の浜岡さんが教えてくださいました。ご一家で営まれるお店で、対応してくださったのは娘の愛子さん。
そうそう、富山では鮮度のよいこと、活きのいいことを「キトキト」と言うんだっけ。「魚津ではキットキト、と抑揚をつけますね。新鮮なこともそうだし、元気のいい人を指すことも」と浜岡さん。つぶ貝以外の特産物や富山の食文化のことなども、エネルギッシュにたっぷりと教えてくれました。まさに浜岡さんが、キットキトの人だったなあ。

世の中、いまは旅どころじゃないけれど、また自由に旅をできるそのときまで元気でいなければ。必ず富山を再訪して、ばい貝の肝和えを楽しむぞ。
※プライドフィッシュ…全国漁業協同組合連合会が選ぶ、四季ごとの地元おすすめの魚介のこと
『ハマオカ海の幸』さんについて
住所: 富山県魚津市港町3−1
電話番号:0765-22-0954
公式サイト: http://www.shiomon.com/
『ハマオカ海の幸』さんの商品を買えるサイト
白央篤司さんの著書はこちら
にっぽんのおやつ
にっぽんのおにぎり
にっぽんのおかず
ところ変われば食変わる――地元レシピ42 ジャパめし。
など
最新刊『たまごかけご飯だって、立派な自炊です。』
「自炊力」「にっぽんのおかず」などの著書があり、hitotemaで「日本おつまみ漫遊記」を連載してくださっている白央篤司(はくおうあつし)さん。 2020年2月に発売の「たまごかけご飯だって、立派な自炊です。-たまごで養う自炊力-」[…]
【hitotema 編集部注】
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