いつだって、キッチンで寄り添ってくれるのは。 #加藤紀子のおいしい畑

キッチンで優しく見守ってくれるアイテム #加藤紀子のおいしい畑

薄々気づいてはいたものの、「ああ、やっぱり」と思ったこと。
ご飯の準備にとキッチンへ行って野菜を千切りしたり、もやしの髭を取ったり、やけに細かく、手間がかかることに着手しているな…と思ったら、大体が原稿の締め切り前。

今も「お昼ご飯の準備を」とキッチンで、キャベツ、ニンジン、パセリを刻んで、カレーに合わせるコールスローを作っている…ようで、実は原稿からの現実逃避。

頭の中を整理しているのか、とにかく「何かやっています」との自分への意思表示なのか、なんだかこんな時間が多いなあ…と改めて。

野菜カレー

(そんな流れで出来上がった、野菜カレーとコールスロー、母が毎年作ってくれるラッキョウ漬けは、キャベツの後ろに隠れちゃいました)

不思議なもので、ほぼ毎日書くブログでは、逃避をすることなく、一気にスラーっと書き進められるのに、パソコンに向かい、「さて書きますよ」となれば、ああでもない…こうでもない…この話じゃダメだ…これもダメだ…が連日。
今も書いては消し、やり直しては消し…を繰り返しすぎて、刻んだり、細かく、手がかかりがちな料理が続いています。

お豆腐と筍のガパオ

その作業により出来上がったのは、木綿豆腐をお肉に見立てて作る、お豆腐と筍のガパオ。味がしっかり入るよう、豆腐の水分をひたすらに炒って飛ばすので、煮詰まっている時にはもってこいの一品。
そして無意識に、人参は千切り、きゅうりは飾り切り…だなんて、悶々とした脳からの脱却…すぎる。

ちなみに、去年の夏の締め切り前はこんなふう。

枝豆

畑で収穫してきた枝豆の両端を、食べた時の口触りを良くするために一つづつ切り落とし、そこから綺麗なものは人にお出しする分、汚れているものは自宅用と、誰に頼まれているわけでもないのに、黙々と作業。
スケジュールを見て「早く原稿を書かねば」と思っているのに、ついつい。

サラダほうれん草

別の日は育ちすぎたサラダほうれん草を葉と茎と一本づつ分けておりました。
「今じゃなくていいんだよなー」なんて分かっているのに、これはこれで気になっちゃって、始めちゃって、止まらなくなっちゃって…だったはず。

さりとて現実逃避が嫌いなわけではなく、他のことをすることによって、頭のスイッチが切り替わったり、別のアイデアが湧いたり、「なんだ、その方法があったか!」と嬉しくなることもあったりもするので、無駄な時間ばかりだとは思っていないものの、アロマの香りを楽しむでも、お風呂でリラックスでも、ショッピングにときめくでもなく、畑の野菜を手に細かな作業って…なんとも私らしい。

そんな私が、キッチンで長く使っているものが一つあります。
それがこちら、プラスティック製のボウル。

プラスティック製のボウル

先程のカレーに添えたコールスローも、このボウルで塩揉み、味付け、完成まで!
とは言っても、至って特別な特徴のない、どこにでも売っている普通のボウル。

旅先でさまざまな調理器具やお皿と出会い、ザルに至っては好きすぎて、ステンレス、テラコッタ、陶器、タケ、網…形と素材違いでその数およそ15個以上、さらにはザルとボウルが一体化となったものを見つけて以来「とても便利!」と感動しているのに、このボウルだけは手放せず。

傷もあるし、いつからか付いてしまった汚れのようなシミは漂白しても取れないし、
ボウルの縁に「一応ありますよ」な佇まいのメモリは、薄すぎて一度も使ったことはないけれど、調理中にボウルが必要となれば、真っ先に取り出すのは、いつだってこれ。

実はこのボウル、17歳の時に歌手を目指して上京するとともにスタートした、一人暮らしの始まりから使い続けている、唯一のアイテム。

鈴鹿から持って出たのは何枚かのお洋服とラジカセ、自分の部屋にあった電話機のみ。両親は、アパート近くで見つけたディスカウントショップや家具屋さんに通い、ベットや小さなテーブル、電子レンジ、コンロなどの電化製品から、家事など無縁で過ごしてきた私が困らぬよう、ザルやボウル、鍋に菜箸など、キッチンでも最低限必要なものを一式、選んでくれました。

なので「無いよりはあったほうがいい」だけの理由で選ばれた存在のボウルすぎて、今となっては親ですら「そんなの買ったっけ?」な記憶かもだけど、レタスと白菜の違いすら知らなかった私が、千切りも微塵切りもうまく出来なかった私が、これ一つでじゃがいもを茹でて、潰して、ポテサラにもコロッケにも出来ることを覚えさせてくれ、また何度の引越しでも失くなることもなく、一人、家族、友人との大切な食事時間を32年間、キッチンと言う場所で、私に寄り添ってくれている大切なアイテム、だからか簡単には手放せない存在となりました。

この時期、新たな環境で生活をスタートさせた方もいらっしゃると思います。
新しい人や物との出会いに、ワクワクしたり戸惑ったり、何かが始まっていく、春ならではの雰囲気は大好きです。
でも一方で、いつだってここに!と言わんばかりの、味方のような存在やアイテムは、
心を落ち着かせてくれたり、受け入れ、甘えさせてもくれるような気がして、大切な付き合い方なのかも…と、現実逃避と駆け込んだキッチンでボウルに触れながら、ふと。

もしも、これまでの様々を見てきたボウルが言葉を持ったら、「紀子さん、行き詰まってまた私のところに来たわ~、はい、刻み玉ねぎ受け入れます〜」とか言われてしまうのだろうなと想像しつつ、一日も早く、悩まずに文章が書ける人になれることを願って、引き続き、原稿と向き合おうと思います。

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