しかしまあ……福岡県の柳川市はきれいなところでした。
行かれたこと、ありますか？ 県の南西部にあって、有明海に面する市です。
水郷柳川と呼ばれる水の都で、市内には堀が無数にめぐらされているんです。地元では掘割（ほりわり）と呼ばれていました。その昔は湿地帯で、掘割によって土地の水はけを良くしていたそう。
早朝の風ひとつない時間に、じっくり散歩できたんですよ。
あちこちで水面にまちが映って、水草や水鳥の姿が見られて。昔ながらの建物も多く、城下町だった江戸時代の風情や近代の雰囲気もそこかしこに残っててね、昔が今にふと通じるような、時代の面影が存分に感じられました。
大きい掘割から細い小川のような堀が家々の間に無数に伸びていて、せせらぎがあちこちで響いているんです。
忘れられない時間となりました。
さて、本題へ。
柳川で何をつまんで来たかというと、有明海の幸なのであります。地元の方が良い居酒屋さんを教えてくれたんですよ。まず出迎えてくれた刺盛りに感激！
全部おいしかったけれど、有明産のタイラギをいただけて幸せでした。しっかりした食感と清々しい香り、上品な甘みがたまらない貝。他の地域では平貝（タイラガイ）の名前で呼ばれますな。
そしてコノシロも。
いわゆるコハダですが、酢じめではなくお刺身で登場！
以前に熊本市でもお刺身でいただいたんですが、九州ではお刺身で食べるところが多いよう。小骨があるので正直食べづらいと思う人もいるかもですが、あえて小骨を感じつつゆっくり噛んで味わって、日本酒をやるとね、これがいいんだな……。
そしてこちら！クツゾコ（クッゾコ、クチゾコとも）の煮つけがいただけて嬉しかったなあ。いわゆるシタビラメです。
柳川ではおなじみの食材で、スーパーでも生の状態のもの、煮つけにされたものの両方が売られていました。クツゾコの名はそのまま靴底、平たい形からついたんでしょうね。ちなみにシタビラメも英名はsole、靴底や足裏という意味の名がついています。
このときいただいたものは身つきがしっかり、脂の乗りもちょうどよくて、食べてる間は目尻が下がりっぱなし。いわゆる「酒、醤油、砂糖」的な煮魚の味つけです。奥に添えられた豆腐がまたもう……うま味を存分に吸い込んで、素晴らしい酒の肴でね。
カパカパ日本酒を飲んでしまいました。
さらにさらに！
こちら、なんだと思いますか。店のご主人がちょっとニヤッとして出してくれました。地元では「ワケノシンノス」と呼ばれる、イソギンチャクの煮たの。
そういうものがあると知ってはいましたが、食べるのは初めて。コロコロとして、大きさはピンポン玉よりひとまわり小さいぐらいですかね。口に入れて噛んでみれば……面白いなあ！クニュッとした食感のあとに、中身のフワトロッとしたものがあふれ出てくる感じ。軟骨みたいなものに包まれてるのかな？
うーん、まさに珍味。でも臭みとかえぐみはないんですよ。例えるなら……上質な牛モツのマルチョウをさらにさっぱりと軽い味わいにしたような？
「この辺では食べるんですよ、昔から。味噌煮が多いけど、きょうは醤油で煮てあります」とご主人。ちなみに名前の意味ですが、「ワケノ（＝若いのの）シンノス（＝尻の穴）」とのこと。調理前の形状を見てみてください。
翌日、魚屋さんで撮らせてもらった写真です。
触手をキュッと引っ込めた状態はたしかに……それっぽい！ しかしなんとも直接的なネーミングですね（笑）。あ、から揚げにしてもおいしいとのこと。最初はビックリするかもですが、クセになる人がいるのも納得の味わいでした。
さて、有明の食を堪能させてくれたお店は『和食 山崎』さん。住宅街の中にあり、一見すると思いっきり個人宅です。かなり入りづらいと思いますが、迎えてくれるご主人夫婦はめちゃくちゃウェルカムで、あったかい方たちでしたよ。笑顔がすごーく良かったんだよなあ、おふたりにまた会いたい。
柳川に行かれることがあったら、検索して予約して、訪ねてみてくださいね。
そして素敵なお店を教えてくれた成清海苔店のご主人・忠さん、本当にありがとうございました。忠さんともまたトコトン飲みたいっす。
柳川、今度はもっとゆっくり訪ねたいなあ。緑の季節はどんなにか素敵だろう。掘割は小舟に乗っての川下りも人気なんですよ。今度は乗ってみたい。
さて5月はどんな陽気になりますやら。さわやかな五月晴れが一日でも多くありますように。
