ちょっとそこまで、お伊勢さん! #加藤紀子のおいしい畑

ちょっとそこまで、お伊勢さん! #加藤紀子のおいしい畑

「お伊勢さんへ」
地元、三重県では伊勢神宮へ参拝に出掛ける時、「近所の知り合いのところにちょっと行く」かのよう、カジュアルにそう呼んで、さらっと出かけていくようなイメージがあって、東京での暮らしの方がすっかり長くなってしまった私には、そのカジュアルさは身に付いておらず、行くとなればしっかりと予定を立てて出向く場所(昨今は番組のロケばかり)となっていました。

が。
実家で目覚めた春のある朝、仕事へと向かう母を見送った後、「今から伊勢神宮行けるかも!」ふと思い立ち、さっと身支度して電車に。近鉄電車に揺られることおよそ1時間、あっという間に伊勢市駅に到着しておりました。

伊勢神宮参拝は外宮から内宮、そして別宮へ巡るのが正式ルートと言われていて、そのように廻ろうとGoogleマップで外宮の位置を確認していると、目の前に内宮行きバスが到着。

「どうしよう?」と悩む間もなく、「今日は思いつきの気まま旅、ルールに囚われずに動いてみよう」と、スルッと乗車。さらには「内宮手前にある猿田彦神社ならびに佐瑠女神社を通過するなら!」と、途中下車。
以前「芸事や縁結びの神様がいらっしゃるのですよ」と宮司さんに教えて頂いたものの、その日から随分の時間経ってしまっていることを思い出し、近くまで来て知らんぷりは出来ないなあ…と、改めてご挨拶を。
そして、心晴れやかに内宮へ。

橋

アニメ「一休さん」ではとんちをかけて「このハシ渡るな」なんていう標識が出ていたけど、内宮では参道を歩くときには「真ん中は神様が通るからハシを歩け」と聞いたっけ…
宇治橋を渡りながら、そんな記憶ふわり。

春休み期間とはいえ平日は人はまばら、足元から聞こえる玉砂利の清い音を聞きながら、一歩一歩。

内宮

いつ来ても空気が凛としているような気持ちを抱く、正宮。だからこそ、静かに手を合わせ、日常の感謝の気持ちを述べることが出来るのかもしれません。

伊勢神宮参拝記念セルフィー

桜の伊勢神宮参拝記念セルフィー!|
なのにどんな顔をして良いのか、微妙な表情にて失礼。

そこから移動して、外宮、月夜見宮にも参拝を済ませたとなると、「目的は終えたし、帰りましょう」となるのかもしれませんが、わざわざこの地に足を運ぶ方々の多くが参拝だけだった訳ではなく、土地のものを味わう楽しみも忘れてはいけません!と、

山口屋さんの伊勢うどん

伊勢うどんを拝みに伺ったのは、「山口屋」さん。
こちらはミシュランガイド「愛知、岐阜、三重2019 特別版」にも掲載された人気のお店。伊勢うどんの特徴である太麺は柔らかな中にも程よい弾力のおかげでかみごたえあり、麺に絡むタレもまた、たまり醤油のコクがしっかりと効いていて、食べ始めから食べ終わりまで、口の中には幸せがいっぱい!(個人的には“白身抜きの月見”を麺に絡めて、ハフハフいただくのが大好きです)
久しぶりの味わいに、胃も心も満たされ落ち着いた!…けれど。

伊勢神宮へ参拝に行くならば、いつかは訪れてみたい場所がありました。
というのも、そこへ行った方々が口々に、「ようやく辿り着いた」といった達成感をも含む感想を聞かせてくれることが多く、それらを体感できる場所って、一体どんな世界なのか知ってみたいと長く思い続けていて、伊勢に行こうと決めた瞬間にそんな事を思い出してしまったら、電車の中、参拝中もなんなら伊勢うどん食べている間も、心の中ではずっと「あとどれくらいでオープンかな、行ってみたいかも…」ばかりがグルグル回り、後悔しないためにも、お店に向かってみることにしました。

一月家さん

「ここが噂の一月家さんかあ…」
大正3年創業、元は料理旅館さんだったというお店。
開店5分前、うっすら見える暖簾はまだ掛けられておらず、扉のガラスから中の様子が窺えず、雰囲気すら掴めないことに少し緊張感を抱くものの、オープン時間の14時まで約5分、待つことに。

するとそこへ自転車に乗った男性が、店前に自転車を乗りつけ、すごい勢いで中に。スタッフの人がオープンギリギリだなんて、もしかして開店時間変わった?こんな時、隣に誰かいてくれたら解決策も浮かぶのだろうけど、気ままに訪れてる身としては、全てが自己ジャッジ。
勇気を出して「入ろう!」そう決めて、オープン時間に扉を開くと、15、6席ほどあるカウンター席には既に何人ものお客様が。なんなら先ほどの自転車の男性は、大ジョッキに注がれたビール、もう半分も飲んでる!

「開いてた!!そしてお兄さんはお客さんだったのか!」と驚いていると、「いらっしゃ~い、お好きな席へ〜!」カウンターの中から優しい声がかかり、ご常連の邪魔にならないよう、でもメニューがしっかり眺められそうなところへ着席。

カウンター席の他にテーブル、お座敷もあり、キープされた名入りのお酒が何本も並んでいて、その姿は地元のお客さんに愛されている様子がありありと。そんな場所にようやく入れたことにしみじみ浸っている間にも、店は次々とお客さんで席が埋まり、それぞれが慣れた様子で注文を。

メニュー

しばしの時間、周りの声を聞きつつ、メニューを眺めて、ひとまずビールと湯豆腐を注文。

ビールと湯豆腐

こちらは“日本三大居酒屋湯豆腐”と言われているほど人気なんだそう。ホワホワと温かい絹豆腐、ねぎ、鰹節の三位一体が絶妙な美味しさにうっとり…していると(お豆腐親善大使としても、願ったり叶ったりなメニュー)、隣に座った男性が「お姉さん、初めて来たん?」なんて声をかけてくださり。
「そうなんやけど、色々知らんメニューがあるな〜って」
何気なく三重弁でお返事した瞬間、「わ!私、初めて地元の居酒屋に、一人で入ってる!」
衝撃の事実、これぞ大人になった達成感!辿り着いちゃった感!!

思い立って電車に乗り、気ままな旅だと勝手なルートで参拝をし、「これだけは抑えておかないとね」と伊勢うどんを食し、様子を見るだけだったはずの居酒屋に腰を落として、「これ頼んでみ、美味しいで〜」と会ったばかりのご常連さんから伊勢名物“サメタレ”(本来は干したサメのことですが、今はあまり食べられておらず、ここでは別のお魚の干物と、おじさん談)、自家製ラッキョウ、そら豆…などと御指南いただき、あまりの心地良さに普段滅多に飲まない日本酒を飲んだりもして、くつろがせていただいていると思ったら!

日本酒

伊勢に来ると、こんな発見や出会いを味わう事が出来るから、昔から人は「ちょっとお伊勢さんへ」なんて、嬉々と出かけていくのだなあと、深く納得。
もちろん、きちんと参拝に訪れる日もあるけれど、普段から見守ってくれている神様のこと、より親近感を持って、寄り添い、日常を過ごしているのかもなあ…とも。

すっかり離れている時間の方が長くなってはいるものの、それでも“地元”でふらりと出掛けて行ける熱い場所があって、そこはなんとも居心地の良い場所である事に気付かせてもらえて良かったなあ…と、しみじみ感じた2022年の春。

この連載も皆様のおかげで2回目の春を迎えました。今後とも引き続きお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!

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