
ついつい足が向いてしまう店、ってありますね。「あのまちに行ったら、あそこに寄りたい。あそこで飲みたい」って思う店。新規開拓も楽しいけれど、忘れられない味を求めて再訪する――そんな店が旅先にあるのも、いいもんです。
さあ今回の舞台は、大阪!

俗に大阪は「食いだおれのまち」なんて呼ばれますが、行くたびに納得。良店、ホント多いんだ。好きなところ数え始めたらキリがないのですが、私がよく心誘われるのは法善寺のあたり。ミナミと呼ばれるエリアですな。寒い時期、特に恋しくなる店があるんです。

それがこちら『上かん屋 久佐久』さん。「じょうかんや・きゅうさく」と読みます。のれんに「おでん」とありますけど、一品つまみも充実なんだ。上かん屋とはいわゆる居酒屋のこと、と店内にことわり書きあり。

さあ、まずは一杯。
クリーミーな生ビールをやりつつ、何を頼むか考えるのが至福の時間……なのですが、『久佐久』さんに来たらまず頼むものは決まっているのだ。

さあ来ましたよ、名物の「おから」です。
どうやったらこんなおいしく作れるんだろう……と毎回考えてしまう。しっとりと、なめらか。おからに「口どけ」の良さを思ったのは初めてでした。最初驚いたなあ。小切りにされたエビ、ネギ、キクラゲもたっぷり入って、食感が実に楽しくて。たまらんのよ。

そろそろお燗にしますかね
上かんの“かん”はお燗の燗。燗のつけ具合も温度によって呼び方が変わり、店内には温度別の呼び方が貼られています。

「タンポ」と呼ばれる錫(すず)製の酒器でやってきますよ。このときは石川県白山市の酒『手取川』を上燗でお願いしました。
ああ、あったまる…………。
おからをつまんで、燗酒でやって。喉から体に酒が沁みていく感覚をゆっくりと味わう。
しばし、ぼんやり。大阪の宵。

「小蛸のうま煮」も『久佐久』さんに来たら必ず頼むもの。
プリッと張りがあって、なんともほどよい柔らかさ。塩梅よく煮るその芸をしっかりと噛んで、味わって。うーん……この時間がね、いとおしくてならない。はい、酒が進みます。ちょっと添えられた蛸頭の部分と、しろ菜がまた嬉しい。

しろ菜、おでんでも頼みました。
関西でおなじみの菜っ葉で、大阪で特に愛されている印象。あっさり素直で使いやすく、サクッと軽い食感が楽しいんだ。
大阪出身の友人(料理好き)が東京赴任中、「しろ菜が買えへんの、さびしい。つらいわ」とよく漏らしていたなあ。

続いてお願いしたのは、カキと水菜のおでん。
もう言うことありませんね、私にとっての活力剤。ひとつは熱々のうちにいただいて、もうひとつは惜しむようにゆるり味わって。
ああ、明日からまた頑張って仕事しよう。
「まず、何もらおかな」
「お燗の具合、どないします?」
カウンターでひとりやりつつ、お店の方やお客さんの大阪弁が聞こえてくるのもね、私にとってはちょいとしたごちそう。劇場やら近いからか、芸人さんなのか、こってりとした旧式の大阪弁が聞こえてくることもあり、そんなときがまた嬉しくてね。

さあ、そろそろシメますか。
『久佐久』さんのひろうす(がんもどき)、好きなんだ。餡かけにしてくれてワサビがちょい。こんなひと手間が嬉しいじゃないの。しばし見つめて、ニマニマしてしまう。
おから同様、なめらかな食感の中にたっぷりおつゆが沁み込んで。丁寧に仕込まれた職人さんの味です。
今回も堪能しました。ごちそうさまでした。

次の秋冬ぐらいには、もっと旅のしやすい世の中になっていますかねえ……。今しばらくは個食黙食をベースに、手洗い&マスクしっかりをキープですな。
栄養つけていきましょう。
それでは、また来月。
上かん屋 久佐久
https://www.instagram.com/jyoukanya939/
営業情報などはインスタグラムで発信されています。
【当記事につきまして】
ライター白央篤司さんが企画し、掲載許可を得て記事を作成しました。