
北陸の甘エビってのはなぜあんなにもうまいんだろう?
新潟や富山、石川を訪ねての私の楽しみは、甘エビで一杯。甘エビを「ちゅっ」とつまみつつ飲む酒のそりゃうまいこと……。初めていただいたときね、感激したんです。そのときめきがまだ胸の中にあって、思い出すとなんだか疼(うず)くというか、ソワソワするというか、居ても立っても居られない気持ちになるんですよ。
北陸四県は甘エビの主漁地。「地元で鮮度のいいものならそりゃうまいよ」「店によるでしょう」なんて言われるだろうなと思いつつも、やっぱり北陸で食べる甘エビは、違う。北陸人が甘エビに求めるレベルが総じて違うんじゃないでしょうかね。
私は福井で甘エビを食べたことはないのですが、友人の料理研究家が訪ねて「最高にうまかった」と感激していたのを思い出します。日頃はあんまり感情をはっきり表に出さないSさんのぽつり言う「うまかった」は、響いたなあ。ああ、福井にも確かめに行きたい。
これだけ保存や輸送の技術が発達した現代ですが、私は「甘エビは北陸で食え」と思ってしまうのです。

というわけで先日金沢を訪ねた折、いただいてきました甘エビ。
ああ……(しばし恍惚にして無言で)。ねっとりした身質と甘みが、たまらない。これよ、これこれ。小ぶりな身にギュウウッと詰まったうま味が口の中で弾けて、噛むうちきれいに消えてゆく。この去り際の清々しい感じも良い甘エビの特徴。関東じゃこういうのは味わえないんだ。
ちなみに甘エビのおとなり、地元でガスエビと呼ばれているもの。甘エビより一段濃い甘みとふくよかな食感に驚かされました。それでいてやっぱり、しつこくない。ゆっくり噛んで、ねぶって、味わって。頬の中にじんわりと広がるうま味と嬉しさと喜びと。そこで冷酒をきゅっと、ね。
ああ、ああ、あはは。「降参」なんて二文字が心に浮かんできて、またぼんやり。
私は今、金沢にいる。エビを味わってしみじみ、感じるんだなあ。

今回の旅で意外なおいしさを知れたのが、メギス。
北陸ではおなじみの魚で、干ものにされることが多いんです。干ものや焼きものはいただいたことがあったけれど、訪ねたお店では「塩ゆでがおすすめですよ」と。
えっ、メギスのゆでたのなんて食べたことない。即お願いしました!

これがねえ、実によかった。
淡白なんだけど食欲を誘う香りがあって、噛むうちこっちのハートをじわじわつかんでくる握力のあるうま味。あっさりしているようで深い味。なおかつ中に白子も入ってて、これがまた、いいッ……! ほどよいコクのある上品な白子で、この風味が口中にある間に酒を流し込まなくてどうする、という感じ。

いやはやメギスの塩ゆで、すっかりファンになりました。フライや天ぷらにしてもうまいとのことでしたが、今回はこの塩ゆでの感激を胸にとどめたかったので自重。またメギスを食べに金沢を訪ねたいと思います。
ちなみに今回訪ねたのは金沢市大野町にある『宝生寿し』というお店。古民家を再生した店舗は趣たっぷり、店内の雰囲気も結構でしたよ。
教えてくれた友人のSさん、ありがとう。最高においしい時間を過ごせました!

この大野町というところ、港がすぐ近くで海風が感じられるエリア。かつては廻船業で栄えていたそうで、歴史的な建造物が多く残り、まち歩きもかなり楽しかったです。金沢駅西口から車で10分ぐらい、いわゆる繁華街と逆側ですが、訪ねてよかった。市場も近いですよー。

ちょうどオミナエシがきれいな頃でした。
金沢は各地に歴史ある建物が残っていますが、それは先の戦争で空襲を受けなかった数少ない場所のひとつだから。そういうことも、知っておきたい。
さて、次にお目にかかるのは年明けですか。まだちょっと気が早いけれど、どうぞ良いお年をお迎えください。ではでは、また来年!
宝生寿し公式サイト:https://www.housyouzushi.co.jp/
【当記事につきまして】
ライター白央篤司さんが企画し、掲載許可を得て記事を作成しました。