兵庫県明石市 穴しん#日本おつまみ漫遊記 vol.17

兵庫県明石市 穴しん #日本おつまみ漫遊記 vol.17

思い出話を、ひとつ。
定期的に「また行きたいなあ……」と思う場所がいくつかあるんですが、兵庫県の明石はかなり頻繁に思うところ。楽しかったんですよ、とても。

明石といえばタコが有名でね、いたるところにタコのオブジェやイラストがあるんです。実際にタコやタコの干ものを売る店や、タコ料理が名物のお店もいっぱい。私はなんかタコの姿って……ユーモラスに思えて、好きでね。まちのあちこちにタコがいるというのがまず愉快で、嬉しくて(笑)。

この商店街にはやられました。
躍動感のあるタコイラスト、たまりません。そして明石は鯛も名高く、「明石の鯛」といったら長らくのブランド品。谷崎潤一郎の名作『細雪』でも、ヒロインのひとり幸子が明石の鯛を好物とする描写があったような(うろ覚えです、スミマセン)。ちなみに明石は東西に長い市で、南側はすべて播磨灘(瀬戸内海)に面しています。

あちこちにあるといえば、地元名物の「玉子焼き」を売る店も。卵と小麦粉で生地にして、中にタコを入れて丸く焼き上げ、おだしにつけて食べるもの。上品な味わいで、おいしいんだなこれが。「明石焼き」とも呼ばれています。

明石にはね、どうしても行ってみたい店があったんですよ。『たなか酒店』というお酒屋さんがやっている『立ち呑み たなか』なるところ。昔『dancyu』に載っていて、あまりにも魅惑的なその写真にノックアウトされちゃって。

大皿で並ぶおつまみの数々が尋常じゃなくうまそうだったのと、何よりも店内のお客さんの表情がね、最高だったんです。全員の顔に「たなか愛」が溢れている。ああ……みんな、お店のことが好きなんだね、ここにいることが嬉しくてたまらないんだね、と伝わってくるその表情。

実際行ってみて、期待はまったく裏切られませんでした。お店の看板写真だけでも、酒好き・酒場好きには魅力の一端が伝わるんじゃないでしょうか。

私が訪ねた日はたまたまイベントデー、イタリア料理をメインにしたスペシャルメニューがいただけました。やっぱりタコは食べておこうと「イカとタコのカルパッチョ」をつまみに。タコもイカもプリッと食感がよく、敷かれたグリーンも力強い、鮮度のよい野菜でねえ。すべて地元産とのこと。

ワインも飲んだんですけど、せっかくだしと兵庫の日本酒『仙介』を合わせました。フルーティできれいな飲み口で。ああ、至福の時間がよみがえってきます……甘エビとオレンジのサラダも、鯛の子と山菜のフリットも実によかった。
タノシカッタナ……。

ひとりうっとりする私に、「ご旅行ですか」と隣り合った方から声掛けが。
多分同世代、40代ぐらいの女性のグループでした。
「この店を目当てに、東京から来たんですよ」
「ええっ」
「大阪に出張だったんですけど、昔雑誌で見てどうしても来てみたくて、足を延ばしたんです」
「それはまあ、奇特なことで。やけど、来る価値ありましたでしょ」
「ええ、大満足で」
「ここもいいけど、せっかく東京から来たんやったら、他のお店も行ってみたらどうです。明石、いい店多いんですよ。行きたいんと違います?」
「わ、分かりますか」
「まだまだ飲みたそうな顔してはるから(笑)。おすすめはね、そこも立ち飲みなんやけど……」
と、教えてくれたのが、『Pon×Kotsu』(ポンコツ)なるお店。

嬉しいですよね、こういうの。縁は異なもの味なもの。お礼を述べて店を後にし、早速向かいました。

『立ち呑み たなか』から歩くこと数分。入口は暗くて、正直ちょっと入りにくい感じ。でも、中に進んでみればご店主がいきなり「おかえり」と迎えてくれました。その言い方がさりげなくて、自然でね。スッと心、ほぐれましたよ。

さてレモンサワーを頼みつつ……

品書きをじっくり眺める。この時間がたまらんのです。

『Pon×Kotsu』名物という「穴しん」をアテにしました。穴子×おしんこで、穴しん。穴子とタクワンとシソを和えてゴマをふってるんですが、これがおいしくてねえ。「ポンコツに行ったら『穴しん』頼むといいですよー」「名物やしね」とさっき教わっていたのです。うーん、気に入っちゃったな。自分じゃ絶対思いつかない組み合わせだ。

以来、たまに真似ては家でも作っているんですよ。でもねえ、やっぱりお店で食べるほうがおいしい。また『Pon×Kotsu』にも行きたいなあ。あそこも「ここで飲むのがたまならなく好きなんだ」ってお客さんで、いっぱいだった。店を愛する人で埋まっている空間は、本当に居心地がいい。

明石を旅したのはもう5年も前。次は春に行って、アブラメの新子をぜひとも食べてみたい。イカナゴと並んで、かの地に春を告げるものなんだそうですよ。
コロナが落ち着いたら、必ずや。

【当記事につきまして】
ライター白央篤司さんが企画し、掲載許可を得て記事を作成しました。

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