静岡県 黒はんぺんフライ #日本おつまみ漫遊記 vol.6

静岡県 黒はんぺんフライ #日本おつまみ漫遊記 vol.6

焼津駅

焼津を訪ねたのは、サングラスをしていても時折まぶしくなるような、2019年の夏の盛りでした。JR静岡駅から東海道本線で2駅、降り立てばカジキマグロの像がお出迎え。焼津は港町として長らく栄えてきたところで、現在もカツオやマグロを中心とする遠洋漁業のベースとなっています。ここに私は、黒はんぺんのことを調べにきたのでした。

はんぺんといえば、「水産練り製品の一種、魚肉のすり身に、ヤマノイモを混ぜ合わせ、かまぼこよりやわらかく茹でたもの」(※)。ふわふわの食感と、真っ白な見た目でおなじみでしょうね。

「それが静岡のこのあたりでは、はんぺんといったら黒はんぺんのこと。他の地域でおなじみのあれは、“白はんぺん”と区別して呼ぶんだよ」

聞き込みをはじめて、さっそく地元の方が教えてくれました。静岡でも、清水から焼津にかけてのあたり、県中部でよく食べられるもの、とも。

黒はんぺん

「主原料はイワシやサバで、骨ごとすり身にしてから、ゆがいて完成。このあたりは特にサバやイワシがよーく獲れたからね。もともとは日持ちをよくするために加工したんだと思う」
とは、黒はんぺんをつくる業者さんの談。青魚を骨ごと使うから、黒っぽい色合いになるんですね。1枚いただけば、キュッキュッとした歯ざわりがいいなあ。イワシのつみれをさらにラフにしたような食感で、形状は薄く、平べったい。

地元のスーパーを訪ねると、おお……ありました、ありました。かまぼこなどの棚にけっこうな面積で。はい、スーパーの棚の専有面積はその人気を示すもの。黒はんぺん、愛されてますね。ちなみにその店では、10枚入り1パックが75円。他の店では8枚入り110円のもあり、店員さんに聞くと「うちにはないけど、5枚で千円するような高級なものもあるんですよ」と。うーん、食べてみたい。

「黒はんぺんはね、そのままでもおいしいけど、フライがおいしいよ。焼津に来たんだったら、ぜひ食べていってね」
取材したひとが異口同音に発するのが、黒はんぺんフライ推しの言葉。おでんもいいけど黒はんぺんはフライがうまい、焼津市内の居酒屋で黒はんぺんフライを置いてないところはないんじゃないか……といった言葉、何度聞いたろう。

商店街の精肉店をのぞけば、コロッケやトンカツに混ざってありました、黒はんぺんフライ!その店ではヒレカツと並んで棚の1列目、レジに近いプラチナポジションに置かれてるじゃないですか。その他、先のスーパーでもおそうざいコーナーで山盛りでしたし、定食屋さんでは「黒はんぺんフライ定食」も。

街中の黒はんぺんフライ

とあるお店で撮らせてもらったポップ。「焼津市民はこれを食して皆、大人になった」ってなセリフ、いいでしょう?うーん……部活帰りの子どもたちが小腹満たしに買い食いしている情景が見えてくるかのようで。

私も揚げたてを一枚、いただきました。
噛むと青魚の香ばしさが立ちのぼって、う、うまーい……。暑い中を歩き回ってたこともあるけど、かくも「ビールが欲しい!共に食べたい!!」と強烈に感じさせてくれたものは随分と久しぶり。なんていいビールのアテだろうか。

青魚独特の濃いうま味と、フライならではのコクが合わさって妙にこう……ジャンキーなおいしさなんですよ、それをね、ビールでぐーっと流したくなる。衝動にも似た気持ちが沸き起こる。ああ、なんと素晴らしいつまみなんだ………と、ひとり焼津で感動。

「はんぺんフライはね、小さい頃は、おやつ。大きくなると、おつまみ。焼津ではそういう人が多いよ(笑)」と教えてくれたのは、商店街の雑貨店のご主人。「今はもうなくなったけど、昔の焼津の路地裏には駄菓子屋がそれはいっぱいあってね。黒はんぺんフライを出してる店もあった。あそこで食べるのがまた、うまかったんだよ」
と、教えてくれました。そのときのご主人の遠い目が、忘れられない。

はんぺんフライ

ぜひ焼津を訪ねて揚げたてを体験してほしいけれど、まだまだ気ままな旅もちょっとむずかしいですね。静岡市葵区呉服町にある老舗『蒲菊本店』のオンラインショップでは、パン粉までついて、そのまま揚げればOKの黒はんぺんが買えますよ。今回のトップ画像は『蒲菊本店』さんのを揚げたもの。「せっかく通販するなら他のものも……」という方には、特上さつま揚げの「匠」もおすすめ。ふんわり、もっちりの食感がたまりません。

蒲菊本店
http://www.kamakiku.com/html/top.htm

※たべもの起源事典 日本編 岡田哲 ちくま学芸文庫

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