
蒸し暑さが年々、体にこたえます。
“むわっ”とした風を浴びるともう……てきめんに元気が吸い取られますね。エナジーをサイクロン式に強力吸引されるかのよう。近年の猛暑化が異常ともいえますが、みなさんは元気にお過ごしでしょうか。おつまみ漫遊、と題したこの連載も新型コロナの影響で、ずいぶんと旅に出られていません。家でビールを飲みつつ夏を感じながら、どうにも恋しくなったのは「おきゅうと」でした。
あのさっぱりとした、海の味。
九州・福岡の居酒屋でいただいた、おきゅうと。エゴノリという海藻を煮溶かし、固めたものを切って、ショウガ醤油や酢醤油でいただくもの。ところてんよりも食感はしっかりして、磯の香りがするんですよ。

取材で日がな歩き回り、博多のその店に着いたとき私はもう疲労コンパイもいいとこでした。最初に頼んだのが、おきゅうとで。つるっとした食感で食べやすく、よく冷えてあって、ひと口すすれば体がじんわりとクールダウンされたのがね……忘れられないんです。行水したあとのような気持ちよさ。
糸がき(ごく細い削り節)とすりゴマがかかっていました。味つけはやさしい風味の酢醤油。この酸味がね、疲れた体から食欲を呼び覚ましてくれましたよ。脂ののったサバのゴマ和えも頼んでいたのですが、順番が逆でなくて、よかった……。濃厚なサバを疲れた体でいきなり食べていたら、真価をきちんと楽しめなかったはず。
「つまみとして出してますけどね、おきゅうとと言えば、博多では朝ごはんのおかずとして定番だったんです。本来は。昔は天秤棒でかついで、おきゅうと売りが早朝に来たもんなんですよ」
と、お店のご主人。そうか、ごはんのおかずとしても重宝されてきたんですね。夏夜で寝疲れた体にもたしかに、良さそうだ。
調べてみれば、漢字は「沖独活」とあてられることが多いよう。つまり沖でとれるウド(独活)。ウドのかぐわしさとはまた全然違いますが、沖で群生するさまが似ていたのかもしれません。あるいは「救人(きゅうと)」ともあり、飢饉のときの救荒食として活躍した歴史があるからそう書かれた、とする説も。