LPガス業界の将来性は? オール電化の増加で今後のプロパンガス会社はどうなる?

LPガス業界の将来性は? オール電化の増加で今後のプロパンガス会社はどうなる?

LPガス(プロパンガス)は、オール電化増加の影響も受けて最近は需要がやや減少傾向にあり、将来性を不安視する人もいるようです。しかしLPガスは災害時の供給安定性が高いため、他のエネルギーと同様に将来的にも不可欠。
この記事では、LPガスの需要・供給の動向、業界が現在抱える問題、市場拡大に向けた取り組みなどをご紹介します。業界の将来性を読み取るための疑問を解決する内容ですので、ぜひご一読ください。

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LPガスとは

(画像出典)写真AC

LPガスとは「液化石油ガス」のことです。液化石油ガスを意味する英語「Liquefied Petroleum Gas」の頭文字でLPG(LPガス)と呼ばれています。ここでは、LPガスとはどのようなものか、都市ガスとの違いとあわせて確認していきましょう。

LPガスの成分と呼称

LPガスは、主にプロパンとブタンの2種類です。プロパンは、都市ガス供給区域外の一般家庭や飲食店などで使用されているLPガスの主成分。一方のブタンの身近な使用例は、カセットコンロのガスボンベです。ブタンはほかに、工業用LPガスやガスライターのガスとして使われています。

LPガスは両者の総称ですが、家庭用のLPガスの主成分がプロパンであることから、「プロパンガス」という言葉もLPガスと同じ意味で使われています。

実際に使われるときには気体であるLPガスも、タンクやガスボンベの中では液体です(LPガスは冷却や圧力を加えると液体になります)。
液体のLPガスは気体と比べ約250分の1の体積なので、効率のよい貯蔵や輸送ができます。

LPガスと都市ガスとの違い

LPガスという言葉と一緒によく聞くのが「都市ガス」です。
LPガスと都市ガスとの違いがわかる比較を、以下の表にまとめました。

 LPガス都市ガス
供給形態1戸ごとにボンベで個別供給配管による集団供給
供給エリア全国(国土の100%)都市部のみ(国土の5%)
需要家数※約2,400万件約2,760万件
災害時の復旧比較的復旧が早い (1戸単位で安全確認後に復旧可能)復旧まで時間がかかることがある (数百~数千戸単位で配管の安全確認が必要)

出典:【資源エネルギー庁】ガス事業生産動態統計の概況(令和3年5月分の概況)
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/gas/ga001/2021/2021_05.html
※需要家数のみ
出典:【資源エネルギー庁】ガス種別生産・購入量、ガス販売量及び需要家数の推移
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/gas/ga001/pdf/2021/getsuji05.pdf

LPガスは都市部から山間部や離島まで日本国内全域に供給可能なので、面積比では都市ガスの供給エリアを圧倒しています。しかし都市部は人口も住宅も多いので、件数で見ると都市ガスのほうがやや多めです。
なお、災害時の復旧はその傾向があるということで、都市ガスの復旧のほうが早かった例もあります。

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LPガスの利用目的|用途の幅が広いエネルギー

(画像出典)PIXTA

LPガスがどのような用途で利用されているのか、家庭用・業務用・産業用・自動車用に分けて解説します。

家庭用

一般家庭ではさまざまなLPガス専用機器が利用されています。キッチンのガスコンロや、鍋料理に使うカセットコンロなどのほか、ガス給湯器・ガス衣類乾燥機・ファンヒーター・温水式床暖房などは私たちの生活で最も身近な利用例です。アウトドアで使うバーベキューグリルも、LPガス式のものが多く使われています。

業務用

業務用では、飲食店での利用がまず思い浮かぶでしょう。ガス炊飯器、フライヤー、オーブンなど、熱効率が高く大量調理に適しているため、都市ガスエリアでもLPガスを選ぶお店も多いです。また、LPガス式のパラソルヒーターがあるオープンカフェなら、冬の屋外でもじんわりあたたかく快適です。

飲食店だけでなく、熱気球やオリンピックの聖火の燃料もLPガス。その他、コインランドリーにあるような業務用大型衣類乾燥機や学校や自治体の庁舎、オフィスビルで利用されている空調設備「GHP(ガスヒートポンプ)」でもLPガスが選ばれることがあります。

産業用

産業用のLPガスは、工業・農業・水産業などで活用されています。工業では、非鉄金属や鉄鋼の熱処理工程や、食料品の製造工程、窯業、化学工業の分野などLPガスの用途は多種多様です。
農業では、温室の暖房、光合成促進のための炭酸ガス供給などのほか、茶葉や穀物の乾燥、家畜舎の暖房などにLPガスを利用。水産業では昆布やわかめのような海藻類の乾燥にLPガスが役立っています。
工業用では熱効率の良さが、農業や水産業ではガスボンベさえあれば場所を選ばず使えることが利点です。

自動車用

LPガスはガソリンに代わる自動車の燃料としての用途もあります。実は、日本国内のタクシーは約95%がLPガス車です。理由はガソリンに比べて燃料費が安いこと。そう聞くと一般の乗用車でも…と期待してしまいますが、メンテナンスのコストやLPガスを充填できるスタンドの数などの事情で難しいようです。LPガスボンベを積むことでトランクが狭くなってしまうのも、家庭用の乗用車としてはデメリットです。
その他の業務用車両では、送迎用のバスや産業用のフォークリフトなどにもLPガスが燃料として使われています。

排気ガスのCO2排出が少ないことや走行できる距離が長いこと、ガソリンよりも燃費が良いことがLPガス車のメリットです。

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LPガスの需要・供給の動向

(画像出典)写真AC

LPガスの将来性を考える材料として、近年の需要と供給の動向を見てみましょう。

LPガスの需要の推移と今後の見通し

LPガスの国内需要のうち、電力用以外の家庭業務用・工業用・自動車用などの需要は、1996年度をピークに近年は減少傾向にあります。1996年度から2016年度までの20年間を10年間隔でみた実績値と、2017年度から2019年度の1年ごとの実績値の推移は以下のとおりです。
※1996~2017年度実績:日本LPガス協会統計資料より
※2018~2019年度実績:経済産業省総合資源エネルギー調査会資料より

実績
年度199620062016201720182019
国内需要合計 ※電力用以外19,17417,64713,85714,50513,96913,850
(単位:千トン)

また、2021年4月の経済産業省総合資源エネルギー調査会の発表による2020年度の実績見込みと、2021~2025年度の需要見通しを以下の表にまとめました。

 実績見込み見通し
年度202020212022202320242025
国内需要合計 ※電力用以外12,528  13,61813,74213,93013,92413,962
(単位:千トン)

2006年からの10年間で大きく減っていますが、2016年からの10年間ではほぼ横ばいとなる見通しで、需要が下降の一途ということはなさそうです。
2020年の減少は、コロナ禍の影響でしょう。

LPガスの供給

日本LPガス協会の公表によれば、国内のLPガスは海外からの輸入が約75%、国内生産分が25%です。輸入供給は安定しており、シェール由来のLPガス調達が増加しているアメリカからの輸入が約67%です(2020年度)。カナダやオーストラリアでも天然ガスプロジェクトによるLPガス増産体制が進められているため、中東地域からの輸入量が占める割合は少なくなっています。

天然ガスと言えばインドネシア、というイメージを持つ人も多いかもしれませんが、それはLPガス(液化石油ガス)ではなくLNG(液化天然ガス)。また、国内消費増加などの理由でインドネシアからのLNG輸入は現在大幅に減少しています。

LPガス業界の将来性を支える強み|災害時の供給安定性

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災害時の供給安定性はLPガスの大きなメリットです。
具体例も紹介しながら詳しく解説します。

分散型エネルギーだから災害時の復旧が早い

LPガスが個別供給による分散型エネルギーであることは、集団供給である都市ガスや電力との大きな違いです。災害発生時でも1戸ごとに安全点検をして復旧させることが可能なため、他のエネルギーに比べ比較的災害復旧が早いのが特徴です。

2011年(平成23年)の3月11日に発生した東日本大震災のときの例では、震災発生10日後までにLPガスの半数以上が復旧、その後4月中に全面復旧しています。一方、都市ガスは震災発生2週間後から徐々に復旧しはじめ、全面復旧は5月上旬。電力は震災発生10日後までに一旦は大幅に復旧しましたが、4月に数日間の大規模停電が発生した後の全面復旧は6月中旬でした。このような例を見ても、LPガスの復旧の早さがわかります。

家庭用のLPガスの場合、1本50kgのボンベで平均1ヶ月以上の使用をまかなえます。通常は軒下在庫として2本のボンベが設置されるため、地震などの災害時に1本使い切っていても、安全点検が完了すれば2本目だけでさらに1ヶ月以上は使用できて安心です。

避難所や仮設住宅での利用

災害直後に仮設住宅を建てたいとき、地域の小中学校や公共施設を避難所にしたいときにも、運びやすく設置しやすいLPガスは便利です。食事の準備(炊き出し)・暖房・シャワーなど日常生活を取り戻すための整備がすばやく進められるため、安全点検が完了すればすぐ使えるLPガスが選ばれます。

災害対応型のLPガス機器は種類豊富

ガス・電気の供給が止まると命にかかわる人を抱える医療・福祉施設、災害時に防災拠点となるべき公共施設は、災害時に早期復旧させるための備えが必要です。
もしものために全国約770ヶ所に設置されているのが、「災害対応型LPガスバルク供給システム(災害対応バルク)」(2019年までの導入実績)。
バルク貯槽(タンク)、メーター、ホースなどの設備と消費設備(LPガス機器)がセットになっているものです。接続できる消費設備は種類豊富で、大量調理用の炊き出しセット、給湯ユニット、空調のためのGHP(ガスヒートポンプ)、発電機や照明器具のユニットなどがあります。

バルク供給とは?

LPガスのバルク供給とは、バルクローリという専用の輸送用タンクローリーから、バルク貯槽というタンクに大量のLPガスを直接充填する方式です。大口消費が見込まれる施設や事業所などでは、一般的なガスボンベの供給とは異なるバルク供給システムが利用されていますが、一般家庭や集合住宅、小口の業務用にも300kgや500kgの容器が使われています。

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LPガス業界が抱えている問題

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LPガス業界の将来性を予測するために、業界が抱えている問題にも目を向けてみましょう。中小のLPガス販売業者の抱える問題や、エネルギー分野の市場競争などに対しても解決策が必要です。

後継者不足

地方都市でのLPガス業者は中小企業が多く、経営者の高齢化にともない、後継者不足による廃業も増えています。全国LPガス協会の調査によれば、LPガス事業者数は2007年の24,622から2016年には19,514となり、10年間に約2割減少。経済産業省が発表している2020年12月末時点の事業者数では17,170となっていて、引き続き減少傾向が顕著です。

地域の需要に対応するため、地元の都市ガス事業者がLPガス事業を継承する事例も増えています。
今後インフラを守っていくためには、エネルギー事業を展開する大企業の責任も大きくなりそうです。

配送や点検などの人手不足

LPガスの需要が増加する冬場は特に、ガスボンベの配送ドライバーが不足します。約90kgの容器を運ぶ作業は重労働であるうえに、LPガス設備保安点検に関する資格や、LPガス配送・バルク供給に関する資格などが必要なことも人材不足となる要因です。

解決策のひとつは、ガスボンベに代わるFRP容器(繊維強化プラスチック複合型容器) の普及促進。軽くて扱いやすいため配送⾞両の燃費改善や配送員の労⼒軽減につながり、業界の人手不足解消の一助となることが期待されます。

市場規模の縮小や競争の激化

少子高齢化による世帯数の減少やオール電化の増加のほかに、省エネ機器の普及などもLPガスの需要減少の要因となっています。
また電気や都市ガスの自由化がエネルギー分野の価格競争を生み、LPガス業界にも影響しているため、LPガスの価格の見直しも必要でしょう。市場競争で生き残るためには、電気小売事業への参入など柔軟な販売戦略も重要です。

LPガス業界の将来性を読み取るポイント|業界は進化する?

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さまざまな問題も抱えるLPガス業界ですが、今後を見据えたビジョンのもとで掲げられている取り組み方針から、将来的な需要回復の可能性を予想することもできます。

市場規模拡大に向けた情報共有・広報戦略

LPガス業界では需要拡大に向けた広報戦略として、環境への影響が少ないことの周知に注力。業務⽤や産業⽤では石油系燃料からLPガスへの燃料転換によって得られる省エネ・CO2削減・燃料削減効果などの情報共有のほか、自治体のLPガス⾞導入も推進されています。それにともない、LPガススタンドなどのインフラ整備も進むでしょう。

多くの人の快適な暮らしをサポートするエネルギーとして、LPガスを知ってもらうために、エネファームやガスヒートポンプ(GHP)、災害対応バルクなどの広報活動も継続的に行われています。

ITを活用した業務効率化

人手不足の解消には、業務の効率化も不可欠。LPガス業界では、IoT向け通信技術であるLPWA(Low Power Wide Area)の導入が進められています。LPWAは、低消費電力で最大50km程度離れた地点でも可能な無線通信技術のことで、LPガスの集中監視システムに最適です。

LPWA対応のスマートメーター導入によって、正確な検針情報の自動取得も可能になります。従来はガスが切れないようガスボンベにガスが残った状態で交換することが慣例になっており、非効率的でした。しかし、LPWA方式の管理によって残量の正確な把握が可能になり、無駄を解消できます。

また検針業務が自動化すれば、業務量の削減も可能。LPWA方式による集中監視システムは、経費削減や保安の高度化も実現します。消費者に対しては見守りサービスやスマホアプリを活用した便利なサービスが増えるでしょう。

市場への対応

LPガス業界の自由化は、都市ガスや電力業界の小売り自由化よりも先行していましたが、あまり周知されてきませんでした。しかし現在の市場競争においては、公正・透明な市場の整備や、料金透明化・取引適正化はどの業界でも必須。LPガス料金にも、さらなる見える化の動きが求められています。

具体例としては、標準メニューの公表や、新規契約と既存契約との料金体系集約、戸建てと集合住宅との従量料金単価における違いの根拠の明確化などが進められていくでしょう。

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LPガス業界の将来性を左右する需要拡大への取り組みに注目!

人口の都市部集中が進み、オール電化の増加という状況下ながら、当面は横ばいの需要が続くと予想されるLPガス。環境にやさしいエネルギーであることや、災害時の供給安定性はLPガスの大きな強みです。
LPガス関連の企業では、今後も業務効率化や料金透明化とともに、需要の拡大に向けた取り組みが進められていくでしょう。業界の将来性を予測するには、中長期的で多角的な視点が必要です。

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