最近日本で大流行中のマリトッツォ。たっぷりのクリームを挟んだパンで、ローマの伝統的なお菓子ですが、その起源はなんと古代ローマ時代にまで遡ります。すでに古代ローマでは、小麦粉や卵、はちみつやバター、塩で調理されていたと言いますから本当に驚きますよね。
今回はそのマリトッツォにまつわる物語とレシピをご紹介します。
完全にトラディショナルな材料は日本では手に入りにくいので、入手しやすい材料でレシピを作っています。
目次
古代ローマ時代から伝わる、ローマの伝統菓子マリトッツォ

マリトッツォは、夫を意味するマリートというイタリア語を揶揄した表現で、ローマ方言のひとつともされています。こんな可愛らしいお菓子が夫を意味するだなんて!そう思われた方もいるのではないでしょうか?
実はマリトッツォにはとてもロマンチックなストーリーが秘められていたのです。
かつて3月の第1金曜日は、今でいうところのバレンタインデーでした。
日本のバレンタインデーとは少し異なり、イタリアでは恋人同士がプレゼントを贈り合います。そして当時からそのような風習があったのでしょう。日本のバレンタインデーのシンボルがチョコレートならば、当時のイタリアのバレンタインデーのシンボルはなんとマリトッツォだったのです。
しかも男性が婚約者の女性に贈るというもので、生クリームの中に婚約指輪やジュエリーをしのばせてプレゼントをしていたのだとか!
ロマンチックですよね。
道理で夫という名がつけられていた訳です。
さて、このマリトッツォ。
今でこそお菓子屋さんで普通に売られていますが、我が夫がまだ若かりし頃は、朝に食べるものではなく、なんと夜に食べるものだったそうです。
踊りに行ったりしながらナイトライフを楽しんだ後は、空いた小腹をマリトッツォで満たしていたのだとか。日本でいうところの深夜のラーメンにも近い感じです。
マリトッツォの有名店が夜しか営業していなかったからだそうです。
深夜に生クリームたっぷりのマリトッツォだなんて、カロリーを考えただけでも怖くなってしまいますよね。
最近のお菓子屋さんでは、もちろん朝からマリトッツォを販売しています。
いまや有名店では、早い時間帯に行かないと売り切れてしまうのだとか。朝ごはんがブリオッシュとカプチーノというスタイルのイタリアでは、バールでマリトッツォを朝ごはんにする人たちも少なくないのです。
イタリアではすでに忘れられてしまっているマリトッツォに秘められたロマンチックなストーリー。
「大流行中の日本で、そんなストーリーが再び蘇ったら?」
ローマでそんな素敵な妄想をしている私です。
マリトッツォのレシピ
では、日本でも作りやすい、トラディショナルに近いマリトッツォのレシピをご紹介します。
材料(直径約10cmのマリトッツォ6個分)
- 強力粉 235g※
- 砂糖 50g
- 卵(Lサイズ) 1/2個(30g)
- レモンの皮 1/2個分
- バニラエッセンス 適量
- 米油 60ml
- 38℃の牛乳 100ml
- インスタントドライイースト 3g
- 苺 お好みで
<A>
- 卵(生地に使った残り) 30g
- 牛乳 大さじ1
<B>
- 生クリーム(脂肪分42%) 200ml
- 粉糖 16g
- 塩 ひとつまみ
※国産強力粉はグルテンが少ないので、日清製粉のカメリヤがおすすめです。
本物のトラディショナルなレシピとは?
本来は、マニトバという強力粉と中力粉、各110gずつで作ります。
マニトバは、パネットーネなどにも使われるイタリアではポピュラーな強力粉です。
今回のレシピ写真はマニトバを使っていますので、その性質上かなりベタついていますが、カメリヤであればそんなにベタつきません。
また、イタリアでは乾燥のビール酵母を活性化させて発酵させます。しかしさすがに日本では一般的ではないので、今回はインスタントドライイーストを使う手順にしました。
作り方
1大きなガラスボウルに強力粉220g、卵、砂糖、バニラエッセンス、レモンの皮、米油、38℃の牛乳、インスタントドライイーストを加え、手でしっかりと混ぜ合わせる。

<ポイント>
粉の量はどうしても温度や湿度などに左右され、絶対的ではありません。220gから作り始めて、粉がベトつく場合には、強力粉を少しずつ追加し、ベトつきがなくなるまで調整してください。
2生地がひとつにまとまったら台の上に取り出し、生地がきれいにまとまるまで約15分から20分、スケッパーを使いながら手でしっかりと捏ね上げる。

3ボウルの底にオイル(分量外、オリーブオイルか米油)をさっと塗り、その上に丸めた2の生地を入れる。

4ラップをし、生地の体積が最低でも2倍になるまで発酵させる。(2~3時間程度)


<ポイント>
発酵時間は季節や温度によりかなり変化します。今回は寒い時期に30℃の発酵器で作り、一次発酵には2時間半、二次発酵には45分を費やしましたが、あくまでも目安です。
時間ではなく、体積で判断してもらえたらと思います。
54の生地を約70g~80gの6等分にする。

6それぞれの生地を、ガス抜きとパンチをしながら折りたたんでいく。

1縦に伸ばす
2下から1/3を上に折りたたむ
3上から1/3を下に折りたたむ
445度回転させる
5下から1/3を上に折りたたむ
6上から1/3を下に折りたたむ
7つなぎ目部分をすべて上一点に集中させてから閉じる
8つなぎ目部分が下になるようにひっくり返す
7天板にオーブンシートを敷き、6の生地をそれぞれの間隔を保ちながら並べる。

8ラップをし、約45分間、体積が1.5倍になるまで二次発酵をさせる。

いよいよ形成と焼き上げです!
9<A>をしっかりと混ぜ合わせる。
(小瓶に入れてフタをし、シェイクすると簡単かつきれいな卵液ができる)

108の生地の上から7分目くらいのところまで、ハケを使って9の卵液をぬる。

11180℃に予熱したオーブンで22~23分、きれいな焼き色がつくまで焼く。

<ポイント>
20分から焼き加減をチェックしてください。ローマでは焦げているような匂いがするまでしっかりと焼き色をつけるのが特徴ですが、あまりに色の濃さが気になる場合には、途中からアルミホイルで覆ってください。
生地が出来上がりました。あとは生クリームで仕上げるだけ!
12ボウルに<B>を入れ、ハンドミキサーで十分立てに泡立てる。

13粗熱が取れたマリトッツォの真ん中からナイフで切り込みを入れ、生クリームを挟み込む。お好みで苺などをトッピングする。

Profumi e colori “イタリアからの香り”

この記事を書いている4月1日現在、目下イタリア人の考えていることはといえば、やはりパスクアと呼ばれるイースターについてでしょう。カトリック教徒が多いイタリアでは、パスクアはクリスマスと同様にとても大切な行事のひとつなのです。
それもそのはず。クリスマスがイエス・キリストの誕生した日なら、パスクアは人間としての生涯を終えたはずのキリストが、その3日後に復活したことを祝う日だからです。やがて時代を経るにつれ、パスクアは春を祝う祝祭ともなります。
クリスマスにはクリスマスツリーが必須のように、パスクアにも必要不可欠なものがあります。それは卵!卵はキリスト教では生命の誕生を象徴し、パスクアのシンボル的な存在でもあります。カラフルに色付けされた卵はイースターエッグと呼ばれ、食卓を鮮やかに彩ります。
イースターエッグに使用される色は、野菜やフルーツなどすべて自然なもの!
例えばこんな感じです。
- 赤紫:ビーツ
- オレンジ:パプリカ
- 茶:玉ねぎとサフラン
- 緑:ほうれん草やパセリ
- 黄:ターメリック
- 青:ブルーベリー
- 水色:赤キャベツ
- 紫:赤ワイン
ジャム瓶に野菜やフルーツを水と一緒に入れ、ここにゆで卵を殻ごと一晩つけるだけ!

普段は甘いものとカプチーノで朝を迎えるイタリア人ですが、パスクア当日の朝だけはゆで卵を筆頭に、チーズ風味のブリオッシュやサラミなど甘いもの抜きの朝食をいただきます。そしてその食卓にイースターエッグが登場するのです!
きれいな色合いの卵は、それだけで春を感じさせてくれました。