生チョコやブラウニーは初心者でも簡単に作れそうなイメージがありますが、実はプロでも扱いが難しく、一人前のショコラティエになるには数年〜数十年かかると言われるほど繊細な食材です。趣味のお菓子作りでそこまでの技術は不要ですが、せっかくなら少しでも美味しく、そして美しく作りたいですよね。
そこで今回は、“チョコレート菓子を作る時のコツ”を、製菓衛生師の資格を持つ筆者が解説します。

目次
何よりも大切なのは温度管理
チョコレート菓子作りでは、温度管理が何よりも大切です。なぜなら、きちんと温度管理をしないと艶やかな見た目や滑らかな口溶けに仕上がらないからです。

そのため、お菓子作りに使う基本的な道具に加えてクッキング用の温度計が必須です。
クッキング用の温度計には、食材の中に直接入れて測るスティックタイプと赤外線で測る非接触タイプの2種類があります。非接触タイプは内部の温度が測れないので、チョコレートを扱う時はスティックタイプが向いています。
【商品情報】タニタ スティック デジタル 温度計
チョコレート菓子作りの肝!テンパリング

チョコレート菓子を作る時にはチョコレートを溶かす作業がありますが、ただトロトロに溶かすだけでは、
- 風味が劣化する
- 口溶けが悪くなる
- 艶のない仕上がりになる
- カカオバターが表面に浮き出て白っぽくなる(ブルーム現象)
などの失敗に繋がります。
これらを予防するためには、“テンパリング”という工程が必要です。
テンパリングとは、温度管理しながら行う「溶かす→冷ます→温める」という工程で、カカオバターの結晶を安定した状態にするための作業です。
具体的な方法とコツは以下の通りです。
テンパリングの方法
チョコレートの種類によって、テンパリング時の温度は変わります。
以下が目安ですが、商品によって微妙に変わるのでパッケージやHPに記載がある場合は確認してください。
工程1 | 工程2 | 工程3 | |
スイートチョコレート | 50〜55度 | 27〜29度 | 31〜32度 |
ミルクチョコレート | 45〜50度 | 26〜28度 | 29〜30度 |
ホワイトチョコレート | 40〜45度 | 26〜27度 | 28〜29度 |
工程1湯煎にかけてチョコレートを完全に溶かします。

工程2湯煎から下ろし、15度前後の冷水にあてながらゴムベラで攪拌して温度を下げます。

ここで、サラサラだったチョコレートにとろみがつきます。
工程3再度湯煎にかけてカカオバターの結晶を整え、使うまでこの温度でキープしておきます。
テンパリングのコツと注意点
テンパリングには、いくつかポイントがあります。
工程1での湯煎の温度は50度前後

ぐつぐつと煮立ったお湯だと短時間で溶けますが、チョコレートの温度が急激に上がるとカカオバターが変質し、舌触りや見た目が悪くなります。湯煎の温度は50度前後にし、ゆっくり溶かしましょう。
チョコレートの重量は300g以上

チョコレートの量が少ないと急激な温度変化が起こるため、カカオバターが変質したり適切な温度を保つのが難しくなったりします。300g以上のチョコレートを使うのが理想です。
均等な細かさ

チョコレートの大きさにばらつきがあると温度にムラができるので、できるだけ同じ大きさにカットするのがポイント。チョコレートが溶けやすいように、テンパリングの前に5mm角に刻みます。
手間を省きたい場合は、刻む必要のないタブレット状のチョコレートもおすすめです。
空気が入らないようにする
テンパリング中に空気が入ると艶のない仕上がりになります。ホイッパーではなくゴムベラを使い、ゆっくりと円を描きながら温度調節するのがポイントです。
チョコレートコーティングのコツ

テンパリングが終わったら、次はコーティングする段階。
でも、仕上げにチョコレートコーティングするオペラやザッハトルテは、
- コーティングが均一にならない
- 表面が凸凹になる
- 艶が出ない
といった失敗をしやすいので、初心者にはちょっとハードルが高いと感じませんか?
しかし、ポイントさえ覚えれば美しい見た目に仕上げられます。
温度は30度前後
チョコレートの温度が低いとコーティング作業中に固まり始めてしまい、表面が凸凹になりやすいです。逆に温度が高いと、土台が溶けたり固まる前に流れ落ちて薄付きになったりすることも。30度前後に保温した状態で使用します。
テンパリングする前にディップするフルーツをカットしておく、ケーキ生地を仕上げておくなど、すぐコーティングできる状態にしておくと効率的です。
ケーキ類は網の上に置く
フルーツなどをディップするお菓子は別ですが、ケーキやドーナツといった大きさのあるものは網(ケーキクーラーなど)の上に置いて作業します。全体にコーティングチョコレートを流しかけることで縁まで均等にコーティングできますし、同時に余分なチョコレートが流れ落ちるのでキレイに仕上がるのです。
必要な量よりも多めに用意する
「足りなかった!」となった時に追加でコーティングチョコレートを作ると、その間に固まってしまってムラができます。必要な量より少し多めに用意しておくと安心です。
【補足】コーティング用チョコレートとは?
製菓材料店やスーパーでは、コーティング専用のチョコレート(パータグラッセ)が販売されています。コーティングに自信がない方や時短したい方におすすめです。
メリット
テンパリング不要で、湯煎や電子レンジで溶かしたらそのままコーティング作業に入れます。また、コーティングしやすいように作られているので扱いやすいです。
デメリット
一般的にコーティング用チョコレートは“準チョコレート”という位置付けで、総カカオ分の割合が低く硬化油(常温で固形化する油脂)が配合されています。そのため、クーベルチュールチョコレートに比べてカカオの風味が落ちます。
チョコレート菓子をきれいにカットするコツ

テンパリングもコーティングも上手にできたのに、カットがうまくいかない!
これは、チョコレート菓子で意外に多い失敗。
- 包丁にくっつく
- 断面が汚くなる
- コーティングチョコレートがひび割れてしまう
といったケースがよくあります。せっかく時間と手間をかけて作るのですから、最後の最後で失敗したくありませんよね。この章では、チョコレート菓子をきれいにカットするコツを紹介します。
包丁を温めて押し切りする
チョコレートやバター、生クリームといった油脂の含有量が多いお菓子(生チョコやオペラなど)は、生地が包丁にねっとりとくっつきやすいです。
解決法は、切る前に湯煎で包丁を温めること。包丁が温かいと生地に接する面のチョコレートや油脂が適度に溶け、スッと包丁が入ります。また包丁は上下に大きく動かさず、包丁の重さを利用してゆっくりと押し切りするのもポイントです。
但し、チョコレートと水分は相性が悪いので、湯煎後は必ず乾いた布巾で水分をしっかり拭き取りましょう。
毎回汚れを拭き取る
包丁に汚れがついていると切れにくく、断面が汚くなったり隣のお菓子に汚れが移ったりします。面倒でも、1回カットしたらその都度キッチンペーパーや布巾できれいに汚れを拭き取ってください。
冷やしすぎない
冷やし足りないチョコレート菓子は、柔らかくて形崩れしやすいです。しかし、冷やしすぎると今度はかたくて切りにくかったり、せっかく温めた包丁が冷えてしまったりします。
特にガトーショコラやパウンドケーキは、キンキンに冷えた状態で切るとボロボロと崩れやすいです。カットする5〜10分前に冷蔵庫から出して、適度なかたさになったタイミングで切りましょう。
板チョコでチョコ菓子は作れる?

市販の板チョコはそのまま食べても美味しいように香料や食物油脂、乳化剤などを加えて味や舌触りを調えています。そのためカカオ本来の香りが少なかったり甘みが強かったりします。板チョコで美味しいチョコレート菓子ができないわけではありませんが、できれば製菓用チョコレートを使いましょう。
クーベルチュールチョコレートとは?

製菓用チョコレートの中でも、クーベルチュールチョコレートは品質がいいことで有名です。国際基準も設けられており、
- 総カカオ分が35%以上
で、そのうち
- カカオバター(カカオ油脂)分が31%以上
- カカオ固形分が2.5%以上
をクリアしたチョコレートです。
添加物が少ないため、カカオ独特の芳香やコクがダイレクトに感じられます。ただ、カカオの成分が多い分、板チョコに比べて高価です。
製菓用と板チョコを使い分けるなら?
生チョコレートやトリュフなど、材料がシンプルでチョコレートの香りやコクをダイレクトに味わいたいお菓子は、ぜひ製菓用のクーベルチュールチョコレートを使って欲しいところ。
逆にナッツやドライフルーツを入れたブラウニーや洋酒で香りを足すパウンドケーキなどは、費用を抑えるために板チョコを使ってもいいでしょう。
チョコレート菓子作りは奥が深くて楽しい!
溶かして混ぜるだけ……と思いきや、意外と繊細なチョコレート菓子。しかし、正しくテンパリングすれば口溶けや見た目が全く変わります。手間をかけるだけ美味しくなるので、違いを感じられればチョコレート菓子作りがきっと楽しくなるはず。
また、コーティングやカットもコツさえ覚えれば初心者でもさほど難しくありません。今はおうち時間も増えているので、バレンタインは手作りに挑戦してみてはいかがでしょうか。