度重なる引越しがやっと落ち着いたのは、阪神大震災から5年後のこと。
引越し先の家は、私が習い事に行きダンスを踊っている間に決まっていた。
住所や最寄駅は全く土地勘のない場所で、通っていた学校は越境通学に。とはいえ1時間半かかっても、学校に行けば友達に会える。
新築の家の匂いは気持ち良く、新しい生活のスタートに安堵した。
その矢先、母が入院した。
母の入院は事態を一変させた。震災後の混沌とした日々に、気苦労もあっただろう。兄はもう大学生で下宿しており、父の仕事も忙しかったため、しのごの言わず私がとにかく家のことをやらなくては、と腹を括った。
学校が終わったら、すぐに母の病院へお見舞いに。必要なものなどをヒアリングして帰る。食材の買い物をして、家に着く頃にはいつも真っ暗だった。宿題は免除してもらった、ありがとう先生。
毎朝5時に起きて、洗濯機をまわし、こまごまと家の用事をする。大変だったけども、母はこれを1人でやっていたのだと思い、情けないような恥ずかしい気持ちになった。
そんな中、とびきり好きなことが出来た。
毎日のお弁当作りだった。
もう前日の寝る時から始まっている密やかな楽しみ。頭の中で計画を練る。
明日は、解凍しておいた脂の乗った牛肉を、香りの良いごま油でじゅうじゅうと焼いて、甘辛い味を絡めよう。味付けは焼肉のタレでいい。それをたっぷりほかほかの白いご飯の上にのせよう…うふふふ。そうやって夢に落ちる。
毎日毎日、日替わりの欲望を四角い箱にめいっぱい詰め込んだ。
好きなものだけ。お野菜も彩りもいらない。
お弁当がご褒美だった。
あの時、私は「自分の料理」が「自分」を幸せにすることを覚えたのだ。
材料(1人分)
- 牛肉(切り落とし) 100g
- 豆苗 1つかみ
- いり胡麻 大さじ1/4
- 焼肉のタレ 大さじ1
- 海苔 1枚
- お塩 適量
- ご飯 適量
- ごま油 適量
作り方
1炊いたご飯をお弁当によそいます。早く冷めるよう、まんべんなく広げて熱が飛ぶようにしましょう。
ご飯の半分にちぎった海苔をのせます。
2冷たいフライパンにごま油をひき、いり胡麻を入れます。弱火で熱し、香りが立ってきたら豆苗をハサミで切りながら入れます。パラパラとお塩をしましょう。
3豆苗がしんなりしたら、お弁当の海苔の部分にのせましょう。
4牛肉を同じフライパンで焼きます。油を引かず、お肉を入れ、中火で熱します。広げず、焦げ目がつくまで放っておきます。焦げ目が付いたら広げましょう。
5焼肉のタレで味付けをして火が通ったら出来上がり。
6豆苗の横にのせましょう。
美味しく作るコツ
薄いお肉は炒めたくなりますが、焦げ目をつけるまでグッと我慢。香ばしい部分と、柔らかな部分との違いがアクセントになります。
のっけお弁当は私の定番。たくさんおかずを作らなくても贅沢な気持ちになります。包丁も使わないので、寝ぼけまなこでもなんとか作れます。
大人になった今なら言える、お野菜も食べようね、豆苗くらい入れましょうね、と。そのほうが食感にリズムが出て、更に美味しくなりますよ。
撮影:今井裕治