獣医師が解説!猫のライフステージ別の栄養管理のコツと注意点

獣医師が解説!猫のライフステージ別の栄養管理のコツと注意点

猫は成長や老化に従い、食べ物の消化能力やエネルギーの代謝能力が変化していきます。そのため、成長期や成猫期、繁殖期などのライフステージが進むたびに適切な栄養管理をおこなっていく必要があります。

この記事では、仔猫を成長させるための栄養管理や、成猫を肥満させないための栄養管理など、猫のライフステージに応じた栄養管理のコツや注意点について獣医師が解説します。

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猫のライフステージとは

猫は成長に応じてライフステージが変化していく動物です。猫のライフステージは仔猫が成猫になるまでの期間である成長期、成体として活動する成猫期、徐々に身体が衰えていく高齢期の3つに大別されます。さらに成長期は哺乳期、離乳期、成長期に分けることができます。雌の猫では妊娠・出産をおこなう繁殖期という特別なライフステージを持ちます。

成長期(哺乳期・離乳期・成長期)

成長期(哺乳期・離乳期・成長期)
(画像出典)PIXTA

成長期のうち、哺乳期は仔猫が母親から母乳を与えられて成長する出生直後~離乳までの期間を指します。

出生してすぐの仔猫は初乳と呼ばれる特別な母乳を飲みます。初乳には免疫力を高める栄養素が含まれており、これを摂取することで仔猫はウイルスや細菌などの感染症から身を守ることができます。
次に仔猫は成乳と呼ばれる栄養素が豊富に含まれる母乳を与えられ、身体を大きくしていきます。仔猫は生後10~14日で瞼を開くようになり、その数日後には目が見えるようになります。

生後4~5週齢の仔猫は、母乳だけではなく母猫が食べているキャットフードにも興味を示すようになり、離乳期へとライフステージを進めていきます。離乳期の仔猫は生後8~11週齢ほどで離乳が完了し、自分でキャットフードを食べられるようになります。

離乳した仔猫は成長期を迎え仔猫から成体の身体へと発達します。品種や個体差はありますが、生後8~12ヶ月で成体となります。なお雄猫では生後9~12ヶ月、雌猫では7~12ヶ月で性成熟を迎え、繁殖して子孫を残すことができるようになります。

成猫期(維持期)

成猫期(維持期)
(画像出典)PIXTA

成猫期の猫は成長期のように身体を発達させることもなく、繁殖期のように妊娠や授乳をおこなうこともありません。基礎代謝や運動などで消費したエネルギーを食事によって補うことで身体を維持するため、成猫期は維持期とも呼ばれています。

高齢期

高齢期
(画像出典)PIXTA

成猫期を過ぎた猫は高齢期にライフステージを進めていきますが、何歳以上の猫が高齢であるかということは、明確には定義されていません。

しかし、

24+(猫の年齢-2)×4

という式で猫の年齢を人の年齢に換算することができるため、一般的には人における高齢の基準である65歳に相当する13歳を超えた猫を高齢であると見なします。

高齢期の猫では歯の黄ばみや被毛の汚れ、爪とぎの頻度の減少などの特徴があるほか、いくつかの疾患がよく見られるようになります。
例えば腎機能が低下し、頻尿、嘔吐、体重の減少などの症状を引き起こす慢性腎不全は、高齢猫でよく見られる疾患であり、死因としても多いことで知られています。

繁殖期(妊娠・泌乳期)

繁殖期(妊娠・泌乳期)
(画像出典)PIXTA

雌猫にとって、繁殖期は特別なライフステージです。妊娠や泌乳をおこない仔猫を育てるためには、非常に多くのエネルギーが必要になるからです。また、猫は季節性繁殖動物であるため1~8月の間に妊娠することが多いです。
妊娠した猫は平均63日の妊娠期間を経て出産をおこないます。

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ライフステージ別栄養管理

ライフステージ別栄養管理
(画像出典)PIXTA

猫を健康に飼育するためには、ライフステージに応じた栄養管理をおこなう必要があります。ライフステージが進むにつれエネルギーの要求量が変化するため、適切な種類のキャットフードを与えて、肥満や痩せなどの疾患の原因となる体型の乱れをコントロールしてあげましょう。
また、成長期の仔猫や繁殖期の母猫などでは、キャットフードや仔猫用ミルクの与え方にも工夫が必要になります。

哺乳期の栄養管理

哺乳期の仔猫は母猫が母乳を与えて育てるため、基本的にはキャットフードの調節などの栄養管理をおこなう必要はありません。

しかし、母猫が育児放棄をしてしまった、体調が悪い、などの事情がある場合は、飼い主が仔猫に哺乳しなければならないこともあります。
生後2~3週齢の仔猫では、市販の仔猫用ミルクを使用して日に4~6回哺乳をおこなう必要があります。含まれる栄養成分に違いがあるため、牛乳を与えることはできません。
仔猫の人工哺乳は難しいため、かかりつけの獣医師に相談して飼育をおこなうようにしましょう。

離乳期、成長期の栄養管理

離乳期が始まった仔猫には、成長期用のキャットフードをお湯や仔猫用ミルクでふやかしたものや、ウェットフードのように食べやすいものを与えるようにしましょう。
特に離乳が始まってすぐは、フレーク状のフードをふやかしたものを与えるといいでしょう。
成長期を迎えた猫は生後6ヶ月でもっともエネルギー要求量が大きくなるため、エネルギーが豊富に含まれている成長期用のキャットフードを十分に与えるようにしてください。

離乳期の栄養管理では留意しなければならない点が2つあります。

猫は離乳のタイミングが難しい

猫は、離乳を急ぎ過ぎると十分に栄養を取ることができず痩せてしまう危険性があり、逆にゆっくり離乳しすぎると将来の問題行動の原因となるリスクがあるという、離乳のタイミングの判別が難しい動物です。

母猫が離乳を促すために母乳を与えないことで仔猫はストレスに曝露され、自発的に捕食行動を引き起こすようになり、同時にストレスに対する耐性を得るとされているためです。そのため猫に求められるままミルクを与えていた場合、ストレスの耐性が身につかず、成猫になったとき些細なストレスに耐え切れずに問題行動を起こす可能性があります。

一般的に猫は生後8~11週齢で離乳するといわれているため、その時期の仔猫の栄養管理はかかりつけの獣医師と一緒におこなっていくと安心でしょう。

猫の味覚の好みは離乳期に形成される

これは離乳期に口にしていたフードの味を成猫になっても好み、他のフードを与えても食べなくなる可能性があるということです。
もし成猫になった後に特定の種類のフードを与える予定がある場合には、かかりつけの獣医師と相談の上、離乳期からに使用するようにするといいでしょう。

成猫期(維持期)

成猫期は、成長期に比べると必要なエネルギーが減少します。そのため仔猫の感覚で食事を与えていると、肥満になってしまうことがあります。
カロリー量が調節された成猫用のキャットフードを与え、しっかりと運動をさせることで栄養管理をおこなっていきます。

高齢期の栄養管理

高齢期になると運動量と基礎代謝が低下することで、成猫期に比べると20~30%ほど必要なエネルギー量が減少します。成猫期用のキャットフードでは栄養過多になってしまうため、高齢期用のキャットフードに切り替えていきましょう。
若いころに比べて猫がよく眠るようになった、運動量が減ったなどの老化のサインでフードを切り替えても良いですし、フードのパッケージの記載によくあるように7歳を境目にフードを切り替えても良いでしょう。

繁殖期(妊娠・泌乳期)の栄養管理

繁殖期の雌猫は非常に多くのエネルギーを必要としています。妊娠中はキャットフードを常に食べることができる不断給餌(ウェットフードなど置き餌が難しい場合では頻回の給餌)をおこなうようにしてください。出産直前になると妊娠前と比べて1~4割体重が増加するため、定期的な体重測定をおこない猫の体重が増えていることを確認してあげましょう。

授乳中の猫は一生でもっともエネルギーを必要としている状態にあります。この状態の猫は妊娠中と同様の給餌方法をおこないます。出産直後と比べ体重減少が10%を超えないようにできる限り多くのエネルギーを摂取できるように高エネルギーの食事を与えてください。

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猫の栄養管理のコツ

猫の栄養管理のコツ
(画像出典)PIXTA

猫のライフステージに応じた栄養管理をきちんとおこなうためには、キャットフードの切り替え方や量の測定方法、疾患になりにくい体型の測定方法とそれに応じたフードの調節など、いくつかのコツが存在します。

ライフステージとキャットフード

猫はライフステージが進むにつれてエネルギーの必要量が変化するため、キャットフードの種類を切り替えていく必要があります。

しかし、猫はフードの好みが強い動物でありキャットフードをいきなり変えてしまうと食欲がなくなってしまったり、お腹を壊して下痢をしてしまったりする可能性があります。そのため、キャットフードを変える場合は、今までのフードに新しいフードを少しずつ混ぜ込んでいくことで、徐々に切り替えをおこなうようにしましょう。

また、猫をウェットフードに慣れさせておくことも重要です。ウェットフードは水分が多く含まれるため、腎臓が弱くかつ飲水をあまりおこなわない猫にとって疾患の予防につながります。ウェットフードは嗜好性も高く、食事に飽きさせない工夫としても種類を揃えておくと良いでしょう。

猫に必要なエネルギー量の求め方

猫に必要なキャットフードの量を求めるためには体重とライフステージごとの係数から1日あたりのエネルギー要求量(DER)を求める必要があります。さらにDERを使用しているフードのカロリーで割ることで1日の必要量を求めることができますが、この計算をおこなうのは難しく面倒です。
体調面や食欲で気になることがない場合は、キャットフードに記載されている目安量を参考にした給餌で問題なく、非常に便利です。

体型の管理とBCS

猫の健康を維持するためには肥満や痩せなどの疾患のリスクとなる体型の乱れを防ぐことが非常に重要になります。

BCS測定による体型の把握

BCS測定
出典:環境省ホームページ
飼い主のためのペットフード・ガイドライン ~犬・猫の健康を守るために~

BCSとはボディコンディションスコアの略であり、理想的な体型を3としたときに現在の猫の体型を1(痩せ)~5(肥満)の範囲で表す方法です。ここでは理想的な体型であるBCS3の猫の体型を説明していきます。

BCS3の猫は胸部を触ったときに肋骨を感じることができますが体表面に見ることはできません。そして、胸部を上から見下ろしたときにわずかに腰のくびれがわかります。つぎに腹部の吊り上がりがお腹のへこみとして見ることができ、脇腹には皮膚のしわがあります。

猫のBCSを測ったときに胸部に肋骨が見てわかる、また肋骨だけではなく背骨もしっかりと触ることができる場合はBCS2以下の痩せ、お腹のくぼみが不明瞭、脇腹のしわが脂肪で垂れさがっている場合にはBCS4以上の肥満であることがわかります。

栄養管理によるダイエット

猫のBCSが3だった場合は現在のキャットフードの量が適正といえますが、BCSが3より大きいときには栄養管理によるダイエットが必要になります。

猫の体重の減少が1週間に2%ほどになるように、現在の食事の量の6~7割ほどを与えるようにしましょう。逆にBCSが3より小さいときには食事の量を増やしてあげてください。

猫の栄養管理の注意点

猫の栄養管理を上手におこなうためには、猫の生物としての特徴を知る必要があります。

総合栄養食を与える

猫は肉食性の強い動物です。タウリンやビタミンAなどのいくつかの非常に重要な栄養素を食事からのみ摂取しており、身体の中で生合成できません。手作り食などでこれらの栄養素が不足してしまうと、心臓の筋肉が弱くなる拡張型心筋症などの疾患の原因となってしまいます。

そのため総合栄養食と呼ばれる種類のキャットフードを与える必要があります。総合栄養食とは、そのキャットフードと水を十分に与えれば猫を健康的に飼育することができるフードの種類を指します。

少量頻回の給餌

野性下の猫は単独で狩りをおこなう動物であり、小さな獲物を何度も捕食してお腹を満たします。そのため、飼育されている猫ではできる限りフードを少量頻回に食べることができる環境を整えてあげるといいでしょう。
新鮮な獲物を好むという特性があるので、フードを温かくしてあげることもおすすめします。

まとめ

まとめ
(画像出典)PIXTA

猫のライフステージ別の栄養管理について解説しましたが、記事の内容を簡単にまとめると以下のようになります。

  • 猫は成長に応じてライフステージが変わっていく動物である。
  • ライフステージが進むと必要になるエネルギー量が変わり、新たに栄養管理をおこなう必要がある。
  • 栄養管理はキャットフードの種類を変更することでおこなう。
  • 猫の体型を維持させるためはBCSを測定する必要がある。
  • キャットフードは総合栄養食と呼ばれる種類のものを使用する。

猫の健康を守ることができるのは飼い主である我々人間です。しっかりと責任を持って栄養管理をおこなってあげましょう。

◇参考資料

  • 『犬と猫の栄養学』奈良なぎさ著(緑書房)
  • 『臨床栄養学』左向敏紀監修(interzoo)
  • 『犬と猫の問題行動の予防と対応 動物病院ができる上手な飼い主指導 』水越美奈監修(緑書房)

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