今年とらや パリ店が40周年を迎えました。東京での企画展やピエール・エルメ・パリとのコラボ商品の発売など和菓子の新しい可能性を感じることのできる企画が盛り沢山です。その中で 虎屋 京都ギャラリーでは、パリと京都の伝統産業とのコラボ企画展が9月26日(土)より開催されています。
京都の若手職人が「パリ」をテーマに制作した、和菓子を楽しむための様々な工芸作品を展示。虎屋 京都店文化事業課の高木さんに今回の企画展についてお話を伺いました。

高木さん「とらや パリ店40周年を記念し、京都の伝統産業の若手職人の団体であるわかば会の方々にパリをテーマにした作品をお作りいただきました。参加いただく職人の皆様に3つのチームに分かれていただき、そのチームリーダーの方々と企画内容を検討してまいりました。昨年末あたりから進めていたこの企画は、コロナ禍の中で展示会の開催自体が危ぶまれましたが、6月にようやく計画通りに開催することを決定いたしました。そこから日々のお仕事でお忙しい中、チームリーダーにお集まりいただいて打合せを重ね、開催することができました。わかば会様は2017年にもこちらで作品展を開催していただきましたが、今回、『パリ』と『和菓子』の2つの要素を作品に盛り込むことは、なかなか難しかったそうです。」
目次
その時代に生きる職人がその技術をもって新しい作品を作り出す
今回の展示には3つのテーマ「贈答」「ディスプレイ」「和菓子でもてなす空間」があります。作品を見て、和菓子やシチュエーションを想像するのも楽しそう。それぞれのテーマと作品について、伺いました。
高木さん「たくさんの職人にご参加いただきましたので、漠然と『パリ』だけではなく、和菓子のあるシーンを3つ想定し、チームごとに制作し、空間を演出していただくことになりました。このうち、京焼・清水焼の田邊桂さんの作品『丸薔薇銘々皿』は、とらや パリ店40周年記念限定商品のピエール・エルメ・パリとのコラボレーション商品、“イスパハン”という生菓子のために制作いただいた器で、隣接の喫茶でも菓子皿として、実際に使って楽しんでいただけます。」
ただ和菓子を味わうだけでなく、お皿や菓子切などその周りのものにもこだわることでお菓子を食べる時間そのものがおいしく感じられそうです!

(画像提供)虎屋
高木さん「薔薇の縁取りが、生菓子の雰囲気によく合う優しい雰囲気の菓子皿で、ご覧いただいたお客様にも『可愛い』とお声をいただいています。また、個人的ないちおしは『薔薇模様箔装飾菓子切』で、京仏具の箔押しの職人、野口晴海さんの作品です。菓子切の持ち手に、細かい薔薇の装飾が施されています。」

(画像提供)虎屋
高木さん「全体に箔押しされた金の色は落ち着きのある色合いで、日本的にも西洋風にも感じられる作品です。」

他にもフランス国旗の3色を用いた銘々皿や面具飾、「Santé(乾杯)」という名前のランチョンマットなど、見た目にはもちろん、細部までこだわり抜かれた作品が展示されています。
高木さん「京都の伝統産業の技を確かに継承しつつ、若手職人ならではの新しい感覚で、それぞれ個性の光る作品が集まったと思います。昔ながらの技術を受け継ぐのはもちろんのこと、その時代に生きる職人がその技術をもって新しい作品を作り出すことも伝統産業であることが、今回の展示で感じられると思います。」
異国の地で菓子をつくる
今回、とらや パリ店40周年を記念し実現した、ピエール・エルメ・パリとのコラボレーション。きっかけはそれぞれ異国の地で自国の菓子や文化を広めようと様々な取り組みを行ってきたことからなんだそう。とらや パリ店40周年企画として、「羊羹を世界へ」を体現できる新しい挑戦的な取り組みを企画し、今回のコラボレーションが実現しました。
高木さん「“イスパハン”は、ピエール・エルメ氏が生み出したフレーバーであり代表作です。バラ・ライチ・フランボワーズの3つのハーモニーは、ピエール・エルメ・パリでも、さまざまな種類のお菓子で展開されています。今回のコラボレーションでは小形羊羹と、生菓子ではきんとん製、求肥製で“イスパハン”を表現させていただきました。いずれも風味をより“イスパハン”に近づけるため、原材料であるライチピュレとフランボワーズピュレは、ピエール・エルメ・パリで使われているものと同じものを使用しています。」

(画像提供)虎屋
高木さん「きんとん製はそぼろを3色にすることで、求肥製は求肥を薄紅に、氷餅を紅に染めて上部に配すことで“イスパハン”の色味を表現しました。一部には通常よりも濃くした紅色を用いて、“イスパハン”のイメージが保たれるよう工夫をしました。開発では、“イスパハン”(バラ・ライチ・フランボワーズのハーモニー)の調和を取るのが難しかったのですが、ピエール・エルメ・パリの方にも試食をしていただきながら少しずつ調整し、“イスパハン”のハーモニーを表現できた際は、このフレーバーの素晴らしさを思い知りました。」
和菓子ではとても珍しい素材、そして色が表現された“イスパハン”。この新しい挑戦を長い伝統を守る虎屋さんが実現することで新しい和菓子の時代が作られていくな、ととてもワクワクします。
同じ時代を生きる人々に身近に感じてもらいたい
パリと京都の共通点はどちらも歴史や文化が身近にあり、街並みも人も食べ物も古くからの伝統が現在に生きている街であることだとおっしゃる高木さん。最後に今回の企画を通して伝えたいことをお聞きしました。
高木さん「伝統産業と聞くと堅苦しいイメージもありますが、新しいもの作り出すことが伝統産業を継承することでもあると思います。パリをテーマとした今回の作品は、和と洋がうまく溶け込んだのではないかと感じています。それを担う若手職人の作品が、同じ時代を生きる人々が身近に感じ、使ってみたいと思っていただけるようなきっかけになれば嬉しいです。」

(画像提供)虎屋
高木さん「期間中、虎屋菓寮 京都一条店では、“イスパハン”の生菓子に合わせて制作いただいた器でお菓子とお抹茶をお召し上がりいただけます。実際に手にとって使っていただくことでも、作品をお楽しみいただければと思います。この度の限定生菓子は、和菓子屋の私どもにとっても、わかば会様と同様に、新たな取り組みでした。これからも、日本の文化を継承する一員として、共に歩んでいけたらと思います。」
京都、和菓子、伝統産業。敷居が高い、と感じてしまいがちなものをうまくコラボさせることで、そこには気軽に触れ合える、新しい文化が生まれていました。見た目で楽しめるのはもちろん、言葉で表現されていない部分にも意味があるところにも日本らしさを感じました。
会場は写真撮影も可能とのこと。また、毎週日曜日の14〜16時には、わかば会の職人さんも在廊していますので直接お話を聞くことができます。伝統文化を気軽に体験できる、誰かに伝えたいと感じられる企画展となっています。和菓子、伝統産業とともに心安らぐひと時を過ごしてみてくださいね。
虎屋 京都ギャラリー第22回企画展
とらや パリ店40周年記念「京の伝統産業 × Paris × Wagashi」 展
【期間】2020年9月26日(土)~11月1日(日) 10:00~17:00
※休館日:10月26日(月) 入場無料
【会場】虎屋 京都ギャラリー(虎屋菓寮 京都一条店横) 地下鉄今出川駅6番出口より徒歩約7分
URL:https://www.toraya-group.co.jp/toraya/shops/detail/?id=55